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見た目の違いはほとんどありませんが、シートに座ると雰囲気が明らかに異なります。肩や腰のホールド性が抜群に良いことから"サスペンションがかなりハードに仕上げられているな"と直感しました。
サスペンションの味付けは、標準車に比べてスプリングが20%ほど硬く変更されていて、予想どおり硬く感じました。ただし、ひとことで硬いといっても"フィーリング"は異なります。発売当初の標準車は「バネレートに対して減衰力が硬い印象」でゴツゴツとした突き上げがありましたが、スペックVは逆に「バネが硬く、減衰力は柔らかめの印象」で、若干ですがマイルドです。しかし、減衰力設定が固定式に変更されたことから、街乗り中心で使用する場合、それなりの"覚悟"が必要です。お世辞にも、快適性に優れたクルマとはいえません。
乗り心地が改善された09仕様と比較しても、スペックVの足は、Rモードよりもハードな印象です。バネレート設定がサーキット走行用に最適化された分、低速域は細かな凹凸を逃さず正確に拾います。バネ下重量が軽くなっているので、中速以上でワダチを乗り越えたときの突き上げ感は"この硬さの割にはソフトかなぁ"と評価できます。
レース用のカーボンブレーキは、実際のところ熱が入らないとまったく効いてくれません。その点、スペックVのシステムは、ストリート走行を前提に開発されたため、低温域から安定して効いてくれます。正直、驚きました。ミューに関しては、標準車に比べて"ビックリ"するほど上がっているワケではなく、逆にストリートで効きすぎても不快になるので、調整されたのだと思います。ストリートにおける効き具合は"ノーマル+α"といった感じです。ペダルタッチや剛性感も同様ですね。
むしろ、カーボンブレーキの真価は、サーキット走行時の耐フェード性が"ものすごく高くなること"にあります。標準車でサーキット走行したことがありますが、ブレンボの6ポッドキャリパーが付いていても、やはりフェードしました。スペックVのカーボンブレーキは、サーキットをガンガン攻めてもおそらくフェードしないと思います。
ローター材質の変更は、バネ下重量を劇的に軽くできるメリットがあります。それに"500万円近い投資"をすることが安いか高いかは別の話ですが…。カーボンブレーキは最先端のシステムです。それが自分のクルマに付いているという"優越感"が気分的に大きいんじゃないでしょうか。
2台を乗り比べてみると、スペックVの加速の方が明らかに速く感じます。ボディが軽量化された分、バネ下重量の軽減が効果的に働き、加速Gは標準車より確実に優れています。とくにハイギヤードブーストのスイッチを押すると、その差は歴然です。メーカー公表数値は「最大パワーは変わらず"中間トルクだけ"がアップする」ということですが、正直な話"ウソ付け!"ってくらい速くなり、明らかに体感できるます。制限時間の80秒というのは分単位に置き換えると1分20秒。筑波サーキットだったら1周走りきることができますので"タイムアタックするとき使ってくださいね!"という機能なんでしょう。
鈴鹿だったらヘアピンの立ち上がりからバックストレートエンドまでの区間が、エンジンパワーが向上すれば簡単にタイムを短縮できます。僕だったら、ヘアピンの立ち上がりでボタンを押しますね。富士スピードウェイだったら…、メインストレートで作動させればトップスピードが10km/hぐらい速くなると思いますよ。高速道路は…。GT-Rはもともと速いクルマなので、すぐに捕まっちゃうスピードに達しますので必要無いと思います。
アクセルペダルを踏みつけると、チタン特有の乾いた音を奏でます。音量的には標準車よりも"若干大きいかな?"という程度で、アイドリングの音質は少しこもった印象です。ただし、リヤシートが廃止された分、タイヤのロードノイスなどを防音しきれず、すべてのノイズが賑やかになります。静寂性については標準車よりも確実に劣ります。
また、GT-Rはマフラー周辺温度が600度近くまで上がりますので、下手にマフラーに交換するとリヤバンパーが溶けてしまうかも知れません。冷却フィンが付いているのは、クラック対策だと思いますよ。
自動車メーカーがここまでハイスペックなクルマを販売するとなると、このぐらいの価格になっても仕方無いのでしょうね。そもそも、標準車の800万円台という値段自体が、世界を代表するスポーツカーと比較すると"バーゲンプライス"なんです。庶民感覚的には超高額車になりますが、スペックに対する値段を考慮すると、じゅうぶん割安感があると思います。
先ほどお話しましたが、いわゆる09モデルは、マイナーチェンジでサスセッティングが変更され、コンフォートモードにすればかなり快適に走行できます。硬い足はイヤだっていう人も、09モデル以降の標準車をチョイスすれば、設定次第で"どうにかガマンできるところ"まで柔らかくできます。また、サーキットを走行する場合、必ずしもRモードが速いとは限りません。ミニサーキットやワインディングは"ただ硬ければ良い"というものでなく、逆にノーマルモードやコンフォートモードを上手に活用した方が速く走れることもあります。スペックVのサスや標準車のRモードは、ニュルだとか鈴鹿サーキットなどの超高速サーキット用に最適化された"ニュルモード"と思ってもらって結構です。200km/hからジャンプしながらコーナリングするようなシーンは、国内サーキットではありませんからね。通常のスポーツ走行だったら、そこまでの硬い減衰力は必要なく、硬くしたところでタイムもさほど変わらないハズです。街乗り中心の人は、標準車で十分楽しめると思います。
では、スペックVの魅力とはいったい何か。それは"特別な1台を所有する"ということに価値があると思います。ノーマルが最良であり、手を加えると価値が落ちてしまいます。オーナーになる方には、カップホルダーすら付けて欲しくないですね。スペックVは、完全オリジナルで所有することが一番カッコイイと思いますよ。もちろんサーキットを走れば素晴らしく速く、楽しいクルマです!