メガワット・マッドネス ― 1000kW R34 GT-R ストリートカー
記事提供元:NZ Performance Car
すべては、ひとつの握手から始まった。そしてその先に生まれたのは、ニュージーランド屈指の“ワル”なストリートGT-Rだった。
ジェイデン・ダグラスは、ウェスト・オークランドで仕上げられた1000kW級のモンスターを引っさげ、再びストリートに戻ってきた。
1000キロワット。つい少し前まで、そんな数字は小さなニュージーランドでは現実味のない世界の話だった。YouTubeでオーストラリアやアメリカのドラッグやロールレースのコンピレーションを眺めながら、ただ驚嘆するしかない――そんな存在だった。もちろん1000馬力級のビルド自体は以前からあった。だが今、状況は確実に変わっている。1000kWという領域に踏み込む“地元ビルド”が次々と現れ、その中にはフル内装を保ったまま公道を走るストリートカーも存在するのだ。トップレベルのパーツへのアクセスが向上し、ローカルワークショップの技術も飛躍的に進化した。キウイたちは今、本気で限界を押し広げている。
その進化を支えているのが、Link、Kelford Cams、そしてHughes Race Builtといったニュージーランド発のブランドだ。彼らのパーツとテクノロジーは、いまや世界最速級のマシンに組み込まれ、ニュージーランドを確実にグローバルマップへ刻み込んでいる。そしてウェスト・オークランドのジェイデン・ダグラスは、それらすべてがひとつに結実したとき何が生まれるのかを体現する、まさに完璧な一例なのだ。
ジェイデンのカーシーンとの関わりは深い。幼い頃からクルマに囲まれて育ち、D1NZではピットでFanga Danのサポートをしながら現場を学んできた。そして15歳のとき、ファブリケーションの見習いとして働きながら、最初の愛車となるRX-8を自ら手を入れて仕上げていった。現在はウェスト・オークランドのヘンダーソンを拠点に、JD Fabricationを運営。フルタイムの仕事として、他のオーナーたちのためにハイクオリティなビルドを次々と手がけている。
まだ26歳という若さながら、ジェイデンはハイパワーマシンのビルドに関してはすでにベテランの域にある。そしてこの雑誌の読者にとっても、決して初登場の人物ではない。覚えている人も多いだろう。RB32を積んだS15でストリートリーガルのまま1000kWの壁を突破し、二度にわたってヘッドラインを飾ったあのマシンだ。国内でも屈指のパワーを誇るRBエンジン搭載車として話題をさらった一台だった。そして今、彼は再び帰ってきた。これまで以上にスケールアップした、まさに「武器」と呼ぶべき一台とともに。そしてそれは、彼自身が長年思い描いてきたバケットリストのひとつをついに叶えるプロジェクトでもある。
これまでにも彼は相当数のマシンを乗り継いできた。R32 GT-Rを3台、そしてシルビアも数台。だが今回の一台は、まさにキウイらしい流れで手に入ったという。きっかけは、ワークショップでの何気ない雑談だった。「このクルマは最初から狙ってたわけじゃなかったんだ。前のオーナーがふらっとショップに来て、ちょっと話していっただけ。気づいたら握手してて、次の瞬間にはトレーラーを取りに行ってたよ」ジェイデンは笑いながらそう振り返る。まさに“タイミングがすべて”の出来事だった。そして彼の手元には、骨格のしっかりしたコンディションの良いR34 GT-Rがやってきた。しかも、そのポテンシャルは十分すぎるほどに秘められていた。
当初のプランはいたってシンプルだった。全体を軽くリフレッシュして、必要ならオールペンを入れる。そして既存の650kW仕様RB28をそのまま楽しむ――そんな構想だった。だが状況はすぐに変わった。エンジンのアイドリングは不安定で、ノッキングの気配もあり、さらにクーラントを異常に消費していたのだ。リフトに上げてブリードテストを行うと、エンジンに深刻なトラブルがあることが判明。結局、エンジンは降ろすことになった。そして、ジェイデンの手元には工具も技術も揃っている。ここから始まるのは、ビルドあるあるの「せっかくだから」の連鎖だ。本来は軽いリフレッシュで終わるはずだった作業は、気づけばはるかにスケールの大きなプロジェクトへと膨れ上がっていくことになる。
きちんと仕上げるなら、やはりボトムエンドから作り直すしかない。ジェイデンはHughes Race Builtのトムに電話を入れ、ほどなくして本格的な2.8Lワイドジャーナル仕様のビレットビルドのプランが固まった。S15ではすでにRB32を試していたジェイデンだが、今回は少し違うフィーリングを求めていたという。「理由はサウンドだね」と彼は語る。「2.8は10,200rpmまで回るし、3.2より音がシャープなんだ。低く太い感じじゃなくて、とにかく「叫ぶ」ような音になる。それに、ちょっと違うこともやりたかった。みんな3.2ばかり選ぶからね。まさに猫も杓子もって感じでさ。」
ブロックにはBullet Race Engineering製ビレットブロックを採用。そこへNittoの2.8Lストローカーキットを組み込み、ワイドジャーナル仕様のインターナルで構成されている。一方、上側にはRB26ヘッドをベースにポート加工とポリッシュを施し、さらにKelford製コンポーネントを組み込むことで、10,000rpmを超える高回転域にも対応する仕様に仕上げられている。エンジンの作業をHRBが担当する一方で、ボディはすべて剥離され、カスタムのホワイトでリスプレーされた。さらにジェイデンは、仲間のダニエル・キャンベルとともにJD Fabricationに簡易のガゼボブースを設営。エンジンベイにも新たにペイントを施し、新しいエンジンが収まるにふさわしい「住処」を整えていった。
Hughes Race Builtからロングブロックが戻ってくると、残りのボルトオンパーツの組み付けはジェイデン自身がホームベースで進めていった。コールドサイドにはHypertune製コンポーネント一式を投入。V2インテークプレナム、インタークーラー、ラジエーターが組み合わされており、これらはLord Bemroseのサポートによるものだ。過給は6Boost Pro ModマニフォールドにマウントされたPrecision 8085ターボが担当。そしてすべてを統合して制御するのが、Linkの最新G5 Voodoo Pro ECU。配線は、ジェイデンのこれまでのプロジェクトでも信頼を置いてきたOCD Performanceのライアンが手掛けたカスタムハーネスによって構成されている。
すべてが組み上がると、ジェイデンはNDT Developmentsのブライアンに連絡を入れ、まずはベースマップを入れてもらい始動とリークチェックを行った。その最初のランで記録したのは650kW。シェイクダウンとしては十分すぎる数値で、そのままMad Mike’s Summer Bashにも持ち込み、数周の走行を楽しむことができた。十分に慣らしを済ませた後、クルマは再びトレーラーに積まれ、もう一度NDTへ。今回は燃料システムをアップグレードし、さらにBosch製1650ccインジェクターをもう一セット追加。その結果、ポンプガスで718kWという確かな数字を叩き出した。しかしジェイデンの頭の片隅にずっと残っている、あの**“4桁の目標”**には、あと一歩届いていない。
その後GT-Rは数週間ガレージで眠ることになる。ジェイデンが他のプロジェクトで忙殺されていたためだ。そんなある日、一本の電話が入った。「ある日の午後、ブライアンから突然電話が来て、“明日なにしてる?”って聞かれたんだ」とジェイデンは振り返る。「E85を入れて、この2.8が本当にどこまで出せるか試してみようって話になってさ。」こうして二人は再びNDTへ。ラウンド3のスタートだ。今回はついにエタノール燃料が投入された。数字が上がっていくにつれて、緊張感も高まっていく。「画面を見てるのはかなり緊張したよ。正直、ちょっとストレスだったくらい。でもビルドには自信があったし、絶対に耐えてくれるって信じてた。」そしてその瞬間は訪れた。ダイノの画面に、ついに4桁の数字が表示されたのだ。54psiという凄まじいブーストのもと、このGT-Rは正式に1000kWクラブの仲間入りを果たした。
こうして完全武装ともいえる一台が完成し、ジェイデンはそのパワーをGT-R Festivalで解き放つ瞬間を今か今かと待ち望んでいる。そこで本領を試すつもりだ。新たに搭載されたAlbins ST6シーケンシャルミッションのおかげで、ギアを次々と叩き込みながら、ロールレースではライバルたちに「チョップ」を食らわせる準備も万端となっている。
いまや右足の下には1000kWオーバーのパワー。ジェイデンは、その凄まじい出力をストリートで体感できるごく限られた「エリート」の仲間入りを果たした。「間違いなく、めちゃくちゃ楽しいクルマだよ」と彼は笑う。「まっすぐ走らせるのは正直かなり大変。でも俺は昔から、とりあえず踏んでみてどうなるか確かめるタイプなんだ。パワーが来るときは、本当に一気に来る。そうなるともう何も考えてないよ。ただ必死にハンドルを握って、アドレナリンに身を任せてるだけさ。」
振り返ってみても、この若きビルダーは今回の仕上がりにかなり満足している様子だ。まだいくつか外観面の仕上げは残っている。サイドスカートとリアバンパーをOEMパーツ+Nismoエクステンションへ交換すること、そしてシートにはJD Fabricationのカスタム刺繍を入れる予定だ。とはいえ、それ以外はすでに理想どおり。このGT-Rはすべての条件を満たし、ニュージーランドのストリートで暴れ回る準備が整っている。これほどのビルドが次々と限界を押し広げていくのを見ると、思わずこう考えてしまう。キウイチューニングは、いったいどこまで進化するのか。その答えがわかるのは――まだ少し先の話だ。
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エンジン関連 |
エンジン:RB28DET / 2800cc 直列6気筒 ブロック:Bullet Race Engineering ビレットブロック、Nitto ワイドロッドジャーナル 2.8Lストローカーキット、Nittoピストン、Nittoコンロッド、ビレットクランク、L19ロッドボルト、Nittoビレットオイルポンプデリート、シングルステージ外部オイルポンプ ヘッド インテーク:Hypertune V2 インテークマニホールド、Hypertune ビレットスロットルボディ EXHAUST:ワンオフ4インチエキゾーストシステム、AdrenalinR マフラー ターボ:Precision 8085、6Boost Pro Mod ターボマニフォールド WASTEGATE:Turbosmart 60mm BOV:Turbosmart Raceport 燃料システム:Kinsler 700シリーズ メカニカルポンプ、Hypertune ツインフューエルレール、Bosch 1650ccインジェクター×2セット、ワンオフサージタンク、テフロン燃料ライン、フレックスフューエルセンサー、Turbosmart フューエルプレッシャーレギュレーター イグニッション:Platinum Racing Products、R35 GT-Rコイルコンバージョンキット、PRP カムトリガーキット 冷却関連:Hypertune ビレット135mmインタークーラー、Hypertune ラジエーター、ワンオフインタークーラーパイピング その他
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DRIVE(ドライブトレイン) |
ギアボックス:Albins ST6 シーケンシャル クラッチ:Direct Clutch Services ツインプレート フライホイール:Direct Clutch Services デフ:Nismo GT Pro 2Way LSD その他:Alpha Omega Racing ワンピースアルミドライブシャフト、Gearhead Diffs チタン製フロントデフブレース |
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シャシー |
STRUTS:HKS 車高調 BRAKES F R34 GT-R Brembo キャリパー、スリットローター&パッド / R R34 GT-R Brembo キャリパー、スリットローター&パッド ARMS / KNUCKLES:Nismoアーム一式 |
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ホイール・タイヤ |
ホイール:F18×10.5J +15 Nismo LMGT4 / R18×10.5J +15 Nismo LMGT4 タイヤ:F265/35R18 Tri-Ace Formula R1 / R265/35R18 Tri-Ace Formula R1 |
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外装 |
塗装:カスタムホワイト ENHANCEMENTS |
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内装 |
シート:NZKW R34 GT-Rスタイル スエードバケットシート ステアリング:純正 メーター類:Nismo 320km/h メーター、MoTeC C127 MFDディスプレイ、MoTeC 15ボタンキーパッド |
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性能 |
馬力:1005kW トルク:1232Nm ブースト:54psi 燃料:E85 チューナー:Brian / NDT Developments |
ドライバープロフィール
所有者:Jayden Douglas
年齢:26歳
ロケーション:Henderson, Auckland ニュージーランド
職業:パフォーマンスカービルダー、モータースポーツファブリケーター
制作期間:2か月
所有:1年
THANKS
Brian(NDT Developments)
Tom(Hughes Race Built)
Ryan(OCD Performance)
Kelford Cams
Reuben Bemrose(R’s Garage)
Daniel Campbell
















