2020ル・マン24時間レース
ル・マン24時間レース、8号車トヨタがハットトリック達成!
心配された雨もなく、無事に24時間の戦いが行われた第88回ル・マン24時間レース。コロナ禍で従来の6月開催から9月へと延期され、さらに無観客での一戦となったが、その中でレース序盤からトップを奪取したTOYOTA GAZOO Racing8号車トヨタTS050がトップの座を守り切り、そのままチェッカーを受けて優勝した。8号車は2018年からの3連覇を達成。ハットトリックが実現している。
8号車のドライバーは、S.ブエミ、中嶋一貴に加え、今シーズンからポルシェからLMP1に参戦していたB.ハートレーが新しく加入。予選は3番手に甘んじた上に、スタートから1時間も経たないうちに左リアタイヤがパンクしてイレギュラーピットイン。タイヤ交換を余儀なくされた。だが、トップを走る7号車のマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組の7号車との差を最小限に留めて2位の座からしぶとく周回を継続する。
一方、ル・マンウィークを迎えてからすごぶる順調だった7号車。新たなレーススケジュールとして導入された”ハイパーポール”でアタックを担当した小林は、自身の持つコースレコード更新を目指して疾走。タイムこそ更新できなかったが、ポールポジションをしっかり手中に収め、次なる目標をレースでの勝利に定め直した。ところが、レースの折返しを過ぎてすぐ、7号車に魔の手が忍び寄る。ターボトラブルが発生し、イレギュラーピットイン。修復作業におよそ30分を要してコース復帰後はクラス4位からの猛追を強いられた。
漆黒の闇から夜明けを迎えたル・マン。トップ8号車、さらには追い上げを続ける7号車はともに安定の走りを見せるが8号車のポジションは4番手のまま。2、3位を走るリベリオン・レーシング1、3号車のトラブルフリーの力走に逆転のチャンスはなかなか訪れなかった。だが、そこはル・マン。開始から18時間を過ぎ、2位走行中の1号車がメカニカルトラブルにより緊急ピットインとなり、3号車が2位へ上がり、1号車は3位に後退する。
一方、トップ8号車はその後も快走を続け、そのうしろ、リベリオンは1号車が2位へと復帰、3号車が3位となりレースは22時間が経過した。だが、残り1時間強の時点で今度は3号車にトラブルが発生。インディアナポリスでコースアウトを喫し、そのままピットイン。結果として7号車が3番手まで返り咲くことになる。
レースは、チェッカーまで残り35分の時点でセーフティカーがコースインするなど、終盤になって落ち着かない展開が続いた。結果、各クラスとも積み重ねてきた各車のマージンが消滅。幸い、トップ8号車は2位1号車との差を5周まで広げていたことから大きな影響はなく、3位まで浮上した7号車も3号車との攻防戦のチャンスを手に入れ、最後には貴重な表彰台の一角をもぎ取るこに繋がった。
387周を走破した8号車は3連覇を達成、その中で中嶋一貴は日本人最多勝利の記録をまたひとつ伸ばした。また、満身創痍ながら3位入賞を果たした7号車。トップ8号車からは6周遅れではあったが、2台のトヨタが1、3位で表彰台に上がっている。
ラスト20分を切り、トップ争いが激化したのがLMP2クラス。トップのユナイテッド・オートスポーツ22号車はラスト10分の時点で給油のためにスプラッシュのピットインを強いられ、2位JOTA38号車との差は45秒強からわずか6秒の僅差へと縮まった。残り8分にトップの座が入れ替わるか否か…。緊迫の展開の中、なんと今度は38号車がピットイン。22号車同様、こちらもスプラッシュで給油を実施。22号車が辛くも逃げ切っている。
今大会でも24時間四六時中激しいポジション争いを続けていたGTEクラス。Pro、Amクラスともにルーティンのピットワークごとに順位を入れ替える展開を繰り広げた。そんな中、Proクラスでは、開始から18時間後、日が昇った頃にクラストップにつけたアストンマーティン・レーシング97号車がそのままトップを死守。それまでトップにつけていたAFコルセ51号車も2番手から逆転を伺ったが、結局最後は1分半以上の差まで広がることとなった。一方、トップ3の座を巡る攻防戦が続いたAmクラス。つねにトップ3に居続けたTFスポーツ90号車がもっとも安定構築。トップチェッカーを受けることになった。
3連勝を果たした中嶋一貴。今回の勝利について「運もあった」と言いながらも「トップに立ってからは自分たちもいい仕事仕事ができたし、やった仕事にも満足している。TS050にとって最後のル・マンだったので、有終の美を飾らなければいけなかった」とプレッシャーある中で成し遂げた偉業に対し、静かに喜びを噛み締めていた。
ル・マン24時間レース決勝結果(総合トップ3および各クラストップ)
<LMP1>
1.No.8 トヨタTS050ハイブリッド(S.ブエミ/中嶋一貴/B.ハートレー組)387周
2.No.1 レベリオンR13・ギブソン(B.セナ/N.ナト/G.メネゼス組)382周
3.No.7 トヨタTS050ハイブリッド(M.コンウェイ/小林可夢偉/J-M.ロペス)381周
<LMP2>
No.22 ユナイテッド・オートスポーツ(P.ハンソン/F.アルバカーキ/P.ディ・レスタ組)370周
<LMGTE-Pro>
No.97 アストンマーティン・レーシング(M.マルタン/A.リン/H.ティンクネル組)346周
<LMGTE Am>
No.90 TFスポーツ(S.ヨルック/C.イーストウッド/J.アダム組)339周
TEXT : Motoko SHIMAMURA
88回ル・マン24時間、18時間を経過しトップは8号車トヨタへ
第88回ル・マン24時間の戦いも折り返しからさらに6時間が経過し、戦いの4分の3が終了。そんな中、スタートから順調に周回を重ねてきたTOYOTA GAZOO Racing7号車トヨタTS050ハイブリッドにトラブルが発生。折返しを過ぎてわずか15分もしないうちにピットに震撼が走った。
現地時間午前2時45分。ピットインした7号車は一瞬ルーティン作業を行うかに思われたが、さにあらず。スケートに乗せられた車両は90度向きを変えてガレージへと収められた。この時点で車両に乗っていたのは、小林可夢偉。車載カメラ越しに悔しさいっぱいの顔が見てとれた。トラブルの原因はターボ。ピットではパーツ交換作業が行われ、29分47秒のロスタイムの末にコースへと復帰するも、トップの8号車からは6周遅れ、ポジションもクラス5番手に降格するという大きな代償を背負うことになった。
LMP2クラスは、ユナイテッド・オートスポーツ32号車オレカ07・ギブソンが長らくクラストップを死守してきたが、現地時間の午前6時半前にトラブルが発生、ガレージにクルマを戻す。オイルリークの修復に時間を要した結果、トップはユナイテッド・オートスポーツ22号車オレカ07・ギブソンへと移り、そのまま2番手のJOTA38号車オレカ07・ギブソンに対し、1分前後の差を築いたまま周回を重ねている。
現時点でもなお僅差の戦いが続いているLMGTEクラス。ProクラスAmクラスともにワンミス、ワントラブルでポジションが変動するタフな戦いとなっている。ProクラスはAFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evoとアストンマーティン・レーシング97号車アストンマーティン・バンテージAMRの攻防戦は変わることなく続いていたが、Amクラスはトップ争いのうちの1台、アストンマーティン・レーシング97号車アストンマーティン・バンテージAMRが開始から16時間を迎える直前にサスペンショントラブルに見舞われ、ピットイン。作業に時間を要しクラス13番手まで後退している。
懸念されていた天候の崩れも免れたル・マン。午前7時40分には待望の日が昇り、いよいよ終盤の戦いが待ち受ける。
18時間経過後の総合トップ3、および描くクラストップは以下のとおり。
ル・マン24時間レース途中結果(現地午前8時30分・18時間経過/総合トップ3および各クラストップ)
<LMP1>
1.No.8 トヨタ・ガズー・レーシング(S.ブエミ/中嶋一貴/B.ハートレー組)288周
2.No.1 レベリオン・レーシング(B.セナ/N.ナト/G.メネゼス組)285周
3.No.3 レベリオン・レーシング(R.デュマ/N.ベルトン/L.デルトラス組)281周
<LMP2>
No.22 ユナイテッド・オートスポーツ(P.ハンソン/F.アルバカーキ/P.ディ・レスタ組)275周
<LMGTE-Pro>
No.97 アストンマーティン・レーシング(M.マルタン/A.リン/H.ティンクネル組)257周
<LMGTE Am>
No.90 TFスポーツ(S.ヨルック/C.イーストウッド/J.アダム組)252周
TEXT:Motoko SHIMAMURA
第88回ル・マン24時間、レース折返しの中、7号車がトップを快走
9月19日にスタートを切った第88回ル・マン24時間レース。スタート当初、心配されていた天候は一瞬雨になったものの、大きく崩れることなく比較的安定した状況のまま、時間を重ねることになった。
スタートから12時間、現地時間深夜2時30分時点でトップを走るのは、TOYOTA GAZOO Racing7号車トヨタTS050ハイブリッド。6時間の時点ではピット作業のタイミングの違いからシスターカーの7号車にリードを許していたが、その後、安定したレース運びを味方にトップを奪還。12時間を過ぎ、190周を終えた時点では、2番手の8号車に対し、2周の差を築いている。
一方のLMP2クラス。山下健太がスタートドライバーを務めたハイクラス・レーシング33号車オレカ07は、一時ポジションアップに成功したが、その後、5時間を経過したあたりでマシントラブルが発生。ピットインして長時間の作業に取り掛かる。原因はギアボックストラブル。50分近いピットイン後、コースに復帰したものの再びガレージへとクルマを戻し、作業を再開。結果、2時間超をピットで過ごすことになってしまった。その後、一旦コースに復帰したが、トラブルが解消されることはなく、結局チームはリタイヤを選択。残念ながら、山下のル・マン初挑戦は折返しを前に終ってしまった。また、序盤、クラストップ争いに加わり、スタートから6時間の時点でトップにいたジャッキー・チェンDCレーシング37号車オレカ07・ギブソンだが、トラブルでコースサイドにクルマを止めていた際に、チームスタッフから手渡されたツールを使用してピットに帰還したことが判明。これによりレース失格扱いとなり、戦列離脱となっている。
近年、24時間のほとんどを僅差でのポジション争いを繰り広げているLM-GTE Proクラス。とりわけ、AFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evoとアストンマーティン・レーシング97号車アストンマーティン・バンテージAMRのポジション争いは激戦となっている。また、LM-GTE AmクラスもProクラス同様に抜きつ抜かれつのバトルを展開。同一周回数での争いが続いている。
12時間経過後の総合トップ3、および描くクラストップは以下のとおり。
ル・マン24時間レース途中結果(現地午前2時30分・12時間経過/総合トップ3および各クラストップ)
<LMP1>
1.No.7 トヨタ・ガズー・レーシング(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組)190周
2.No.8 トヨタ・ガズー・レーシング(S.ブエミ/中嶋一貴/B.ハートレー組)188周
3.No.1 レベリオン・レーシング(B.セナ/N.ナト/G.メネゼス組)187周
<LMP2>
No.32 ユナイテッド・オートスポーツ(W.オーウェン/A.ブランドル/J.バン・アウタート組)180周
<LMGTE-Pro>
No.51 AFコルセ(A.ピエール・グイディ/J.カラド/D.セラ組)169周
<LMGTE-Am>
No.98 アストンマーティン・レーシング(P.ダラ・ラナ/R.ガン/A.ファーフス組)165周
第88回ル・マン24時間、6時間を経過し、8号車トヨタがトップに
9月19日、第88回ル・マン24時間耐久レースの決勝がスタート。現地時間午後2時30分(日本時間午後9時30分)と、例年より30分早い幕開けを迎えた。決勝前日まで晴れ模様先行の天候だったが、決勝日には雨になると天気予報が出ていたが、スタート直前まで薄曇りのままレースは進行。スタートから6時間を迎えてなお雨は降っていない。
気温22.6度、路面温度30.7度のコンディションの下、スタートが切られた第88回大会。30分もしないうちにLMGTE-Amクラスで自身2度目の参戦を果たしたMRレーシング(CARGUY RACING)70号車フェラーリ488 GTEが緊急ピットイン。ギアがスタックする状況となり、およそ20分ほどでECU交換を済ませてコースに復帰するも、序盤に遅れを取ってしまう。また、LMP1、予選3番手スタートのTOYOTA GAZOO Racing8号車トヨタTS050ハイブリッドも開始50分の時点でイレギュラーピットイン。タイヤトラブルにより左リアタイヤ1本のみを交換してコースへと戻った。そんな中、初のル・マン参戦で前日のハイパーポールでも奮闘したLMP2クラスのハイクラス・レーシング33号車オレカ07をドライブする山下健太はクラス同士のバトルで躍進。自身のスティント中にクラス2位へとポジションアップする走りを披露した。
レースは2時間を経過する頃、一旦遅れを取っていた8号車トヨタが7号車のルーティンワークの際に暫定トップへと浮上。その後はピットインで7号車と順位を入れ替えたが、トヨタの2台がトップ2を形成し、周回を重ねている。
LMGGT-Proクラスは予選クラストップのポルシェGTチーム91号車ポルシェ911 RSRがスタート直後からポジションダウン。代わってアストンマーティン・レーシングの97号車アストンマーティンとAFコルセの51号車フェラーリ488 GTE Evoが僅差でのポジション争いを繰り広げている。
現地は午後7時40分頃から日が暮れ始め、午後7時30分を過ぎて日没を迎え、ナイトセッションへと突入。コロナ禍でゲストハウスや移動遊園地の灯りもなく、いつもより長い時間、漆黒の闇の中での走行が続くことになる。
6時間経過後の総合トップ3、および各クラストップは以下のとおり。
ル・マン24時間レース途中結果(午後8時30分・6時間経過/総合トップ3および各クラストップ)
<LMP1>
1.No.8 トヨタ・ガズー・レーシング(S.ブエミ/中嶋一貴/B.ハートレー組)99周
2.No.7 トヨタ・ガズー・レーシング(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組)+12.129
3.No.1 レベリオン・レーシング(B.セナ/N.ナト/G.メネゼス組)97周
<LMP2>
No.37 ジャッキー・チェンDCレーシング(H-P.タン/G.オーブリ/W.スティーブンス組)94周
<LMGTE-Pro>
No.71 AFコルセ(D.リゴン/M.モリーナ/S.バード組)87周
No.98 アストンマーティン・レーシング(P.ダラ・ラナ/R.ガン/A.ファーフス組)85周
第88回ル・マン24時間、トヨタ7号車の小林可夢偉がポールポジション!
今年で88回目の開催を迎えたル・マン24時間レース。コロナ禍で開催時期、レースウィーク中のスケジュール等が一新される中、9月18日の午前11時30分から30分間に渡り「ハイパーポール」が行われ、各クラス予選上位6台による決勝グリッドが決定。クラス総合、そしてLMP1クラスのトップタイムを刻んだのは、TOYOTA GAZOO Racingの7号車トヨタTS050ハイブリッド。ル・マン24時間でのコースレコードを持つ小林可夢偉がアタックを担当。3分15秒267を刻み、ポールポジションを獲得した。
これまで3度の予選を実施してきたル・マン。すべてのセッションの中からチームベストタイムが採用され、決勝グリッドが決定された。だが、今大会はレーススケジュールを大幅に変更。17日はまずフリー走行を2回を行い、その後予選を実施、さらにナイトセッションとして3回目のフリー走行を行った。翌日18日は午前中に決勝前最後となる4回目のフリー走行が行われ、その後、前日の予選で各クラス上位6台に入った車両による「ハイパーポール」を実施。限られた車両だけが、各クラス上位6台の座を競った。ちなみに、この「ハイパーポール」方式の予選はコロナ禍によるものではないとのこと。すでに2019年末に導入をアナウンスしており、開催にあたっても大きな混乱も見られなかった。
前日より気温、路面温度が下がり、やや涼しいくらいの中でセッションがスタート。このハイパーポールでは2セットのタイヤを用いてアタックを実施する。日本人ドライバーの中でハイパーポール進出を決めたのは、LMP1クラスのトヨタGAZOO Racingが7号車、8号車のTS050ハイブリッド2台。7号車は小林可夢偉が、8号車は中嶋一貴がアタックを担当した。そしてLMP2クラスでは、33号車ハイクラス・レーシングから参戦中の山下健太が、ル・マン24時間初参戦ながら、オレカ07・ギブソンでのアタックを担った。
アタック早々からハイペースでタイムを刻んだのは7号車の可夢偉。3分15秒台で暫定トップに立つ。途中、1号車のリベリオンが最速タイムをマークし、7号車からトップを奪うも、クリーンラップでアタックした可夢偉が3分15秒267をマーク、ダントツの速さでトップを奪還した。
30分間のセッションで途中ピットインし、ニュータイヤを装着した7、8号車は最後のアタックにチャレンジ。そこで再び可夢偉が自己ベストタイムをマークしたのだが、このラップでトラックリミット違反が判明。残念ながら自身の持つコースレコード更新はもちろん、セッション中にもタイムを削るチャンスを失った。とはいえ、可夢偉は自身3度目のポールポジション獲得に成功。3度目の正直を願い、優勝目指して申し分のないポジションを手に入れる結果となった。
一方、8号車はノンハイブリッドの1号車のタイムを上回れず。結果、3位スタートとなっている。
LMP2では33号車の山下がアタックを担当。自身初のル・マン24時間だが、1回目のフリー走行で自らトップタイムかつチームベストタイムをマーク、勢いに乗った。だが予選では6位ギリギリで予選を通過。初のハイパーポールでは一時3番手につけていたが、最終的にはクラス4番手で初アタックの大仕事を終えた。
従来であれば、木曜日中にグリッドが確定。金曜日は市街地でのパレードが行われるが今年は中止となっており、そのまま翌日、土曜日の決勝スタートを迎えることになる。スタートは現地時間午後2時30分。初ものづくしの88回目のル・マンは、一風変わったドラマを繰り広げるのか、異例づくしの一戦から目が離せない。
・第88回ル・マン24時間レース予選順位(LMP1クラスのみ上位3台)
<LMP1>
1.No.7 トヨタTS050ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組)3’15.267
2.No.1 レベリオンR13・ギブソン(B.セナ/N.ナト/G.メネゼス組)3’15.822
3.No.8 トヨタTS050ハイブリッド(S.ブエミ/中嶋一貴/B.ハートレー組)3’16.649
<LMP2>
1.No.22 オレカ07・ギブソン(P.ハンソン/F.アルバカーキ/P.ディ・レスタ組)3’24.528
<LM-GTE Pro>
1.No.91 ポルシェ911 RSR-19(G.ブルーニ/R.リエツ/F.マコヴィッキ組)3’50.874
<LM-GTE AM>
1.No.61 フェラーリ488 GTE Evo(F.ピオバネッティ/O.ネグリ/C.レドガー組)3’51.266
2020年 ル・マン24時間レース プレビュー
コロナ禍のル・マン。無観客開催で迎える異例の週末
6月、夏至を目前にしたヨーロッパでは多くのプロスポーツが目白押し。伝統の一戦も多く、爽やかな天気が人々を一層開放的にし、イベントをより盛り上げる。そんな中で長きにわたり開催されてきたル・マン24時間レース。だが、2020年はまったく事情が変わってしまった。もちろん、その原因は世界中を震撼させた新型コロナウイルス感染症の蔓延だ。猛威を振るい続けたウイルスはいまだ”収束”もおぼつかず、”終息”に至ってはなんの見通しも立っていない。これほどのパンデミックが世界中に広がるとは、誰しも思わなかったはずだ。
6月から9月へ
そもそもル・マンが毎年夏至にもっとも近いタイミングで開催されるのにはれっきとした理由がある。おもに24時間を走り続けるドライバーへの影響を少しでも軽減するためだ。夏至直前の欧州は午後10時を過ぎてもなお日が高く、日本で言うところの夕方に近い。つまり、たとえライトオンの状態であってもヘッドライトを頼りに走るというほどではない。結果的に、コース上での走行への負荷が軽減され、ひいては車両同士の不要な接触等の機会も減ると考えられる。だが、コロナというパンデミックはル・マンの開催時期を大きく先へと追いやり、季節は初夏から秋へと移ろいだ。ようやく9月19−20日の日程での実施となったものの、いつになく長い夜のもとでの戦いを強いられることになってしまった。
レースは無観客で
過去には世界大戦等で大会が危ぶまれたこともあるル・マン24時間。今年で88回目となる大会が夏至の頃から初秋の時期へと追いやられたことも異例だが、モータースポーツファンにとって、特に現地ル・マンでの観戦を心から楽しみにしていたファンにとっては今年の大会は複雑な思いをもって展開を見守ることになるだろう。というのも、延期ながら開催が実現したのは何よりではあるが、レースは無観客にて行われるからだ。昨年、かの地には25万を超えるファンが集ったと言われている。ヨーロッパをメインに世界中から歴史ある一戦を見ようとル・マンへと詰めかけるのだ。期間中はホテルだけでなく、今で言う”民泊”やキャンピングカー、あるいはサーキット内のテントを”仮のすみか”とし、長いレースウィークをめいっぱい堪能する…。それがル・マンでの楽しみなのだ。なにもレースを見るだけが楽しみではない。ル・マン24時間が行われている場所を訪れ、その場の雰囲気そのものすべてを体感する。それがル・マン24時間における観戦の”心得”とでもいえるだろう。その楽しみが無と化した今年のル・マン。走る方、見る方の双方が”なにか欠けた”状態で行われる24時間レースは、また違った意味で”歴史に残る”1戦になるかもしれない。
お祭り要素のイベントも皆無に
従来、60台がフルグリッドに並ぶル・マンだが、今年は59台による戦いとなる。クラスはLMP1、LMP2、LM-GTEプロ、LM-GTEアマの4クラスに分けられ、それぞれクラス別にレギュレーションも細分化されている。金絵、日・月曜にはリパブリック広場において公開車検を実施、水曜からサーキットでの走行が幕を開ける。木曜深夜には各クラスのポールポジションが決定。金曜は市街地でのドライバーズパレードが行われ、お祭り気分も最高潮となる。
だが、今年は公開車検もなく、金曜のパレードもなくなった。走行スケジュールは、木曜から。ただし、コロナ禍でWECのシリーズ戦も一部が延期(中止)されていた背景から、ル・マンでの走行時間はこれまでよりも多く設定され、初日も木曜だけでもフリープラクティスおよび予選1回目で合計10時間45分もの走行枠が確保されている。もちろん、この間にナイトセッションも行われる。これでクルマのセットアップ確認はもとより、ドライバーたちも気持ちの上で”走る準備”が満たされることを願いたい。
三連覇、達成なるか。トヨタの挑戦
一方、予選方式はコロナ禍での”ニューノーマル”により、方式が改められた。従来、3度の予選を通して総合ベストタイムを決めていたが、予選セッションは2回に留め、うち1回目を木曜に45分実施し、そして2回目は金曜日1時間のフリー走行後に1時間のセッションで行う。だが、全59台が2回の予選でアタックができるわけではない。全59台が出走できるのは、木曜の45分間のみ。ここで各クラス、つまり4クラス上位6台のみが金曜日に行われる2回目予選に出走できるチャンスを手にすることができるのだ。この2回目の予選は「ハイパーポール」と呼ばれ、これで各クラス上位のスターティンググリッドを確定する。
従来は、3度の予選で自己ベストをどのタイミングに出すか、と気に異なるセッションでマークしたタイムがチームベストとなることもあったが、今回のハイパーポールは、一度ふるいにかけられた上位チームにのるガチンコのアタック合戦が繰り広げられるため、サーキットでアタックの様子を見ることができない”リモート観戦者”にとっては、ライブで誰が最速ドライバーなのかを見届ける楽しみが与えられたと言えよう。
そして、LMP1クラス、つまり総合優勝の可能性をかけて挑むのが、TOYOTA GAZOO RACING。7号車、8号車の布陣にはそれぞれ小林可夢偉(No.7)、中嶋一貴(No.8)の日本人ドライバーが優勝をかけて戦いに挑む。昨年、優勝目前に迫った7号車に代わり、8号車として自身ル・マン2勝目を挙げた一貴。自身3度目の優勝がかかっている一方、同じように日本人として総合優勝を目指して挑戦を続ける可夢偉にも勝利の美酒を味わってもらいたいところ。果たして今年はどちらのトヨタTS050ハイブリッドが優勝に王手をかけるのか。期待がかかる。
さらに、日本人ドライバーとしてフル参戦を続けるLMP2クラスの山下健太。今季はコロナ禍でWEC開催が延期され、参戦の予定がなかったSUPER GTにスポット参戦したり、SUPER FORMULAでは開幕戦で2位表彰台に上がるなど、好調さをアピール中だけに、自身初のル・マンでもいい意味で暴れそうな気配がする。
このほかにも、日本チームとしてGTEアマクラスにはCARGUY RACINGが参戦を果たす。昨年ル・マンで初挑戦したが、今年の第二章でどのようなドラマを作り上げるのか、見どころのひとつだろう。
待ちわびたル・マンでの戦い。ドライバーはもちろんのこと、レース関係者にとっても、そして世界中のファンにとっても心躍る24時間の戦いになってもらいたいものだ。
TEXT : Motoko SHIMAMURA