2016ル・マン24時間耐久
ル・マン24時間、まさかの結末を経てポルシェが連覇!
日曜日の午前を迎え、ル・マンの天気はすっかり晴れ模様。結局、雨の心配はなくなり、各車がチェッカーを目指し、周回を重ねるステージへと入った。
午前9時を過ぎ、トップ2台はトヨタが堅守。ルーティンのピットインを立て続けに行なうと、ライバルの2号車ポルシェが代わってトップに立ち、その後方をかなりの周回遅れで8号車、7号車のアウディが走行するという形に長らく変化はなかった。だが、お昼を前に、2号車を追い立てていた6号車がカーティングコーナーで痛恨のスピン。6号車をドライビングしていた小林可夢偉が巧みなコントロールでグラベルベッドでのスタックを回避したものの、2号車との差を25秒と大きく広げてしまった。さらに、ルーティン時には傷めた部署を応急処置する悲調に迫られるなど、最後になって慌ただしい作業が重なってしまった。
レースはその後、午後3時のチェッカーに向け、静かな準備が始まることになった。トップ3台のうち、2号車ポルシェは予選で最速タイムをマークしたN.ジャニを擁してラストチャンスに照準を合せる。一方、トヨタは6号車が先にピットインし、サラザンへ。そしてこの時点でトップをひた走るトヨタの5号車には、中嶋一貴が乗り込んだ。
日本チーム、日本人選手によるル・マン初制覇の実現を目前に、3番手の6号車も2号車逆転のチャンスを狙ってはいたが、それよりも一層注目が集まったのはトップ5号車とそれを追う2号車の攻防戦。チェッカーまで残り15分となる頃には、2台の間におよそ30秒という差が生まれており、このまま何事もなければトヨターポルシェートヨタの並びで長い戦いが幕を降ろすものと思われた。だがしかし、ドラマはここで終わらない。
なんとあろうことか、中嶋がメインストレート前から超スローダウンを喫し、チーム前ピットで車両を止めてしまう。システムをリセットし、再スタートを切るには成功したが、すでに2号車の先行を許してしまった。さらに、苦労してなんとかコース1周を走り終えた中嶋ではあったが、規則により、完走扱いにはならず。待ちわびた勝利がはらはらと手から落ちていくまさかの結末となってしまった。
これまでも数多くのドラマを生み出してきた伝統のル・マン。だがしかし、今回ほど劇的な、そして悲惨な筋書きはこれまであっただろうかと思うほど、トヨタにとっては無情の結果をもって戦いを終えている。
◎ル・マン24時間レース決勝結果(総合トップ3および各クラストップ)
1.No.2 ポルシェ919ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/M.リーブ)384周
2.No.6 トヨタTS050ハイブリッド(S.サラザン/M.コンウエィ/小林可夢偉)381周
3.No.8 アウディR18(L.ディ・グラッシ/L.デュバル/O.ジャービス組)372周
LMP2
No.36 アルピーヌA460・ニッサン(G.メネセス/N.ラピエール/S.リチェルミ)357周
LMGTE Pro
No.68 フォードGT(J.ハンド/D.ミュラー/S.ブルデー)340周
LMGTE Am
No.62 フェラーリ458イタリア(W.スウェードラー/T.ベル/J.シーガル)331周
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)
18時間を経過したル・マン24時間、5号車トヨタがトップを奪取
薄曇りのまま朝を迎えたル・マン。幻想的な朝焼けもなく、
午後3時以降、
午前7時半頃、3回目のセーフティカーがコースイン。
その後もトップ2をトヨタがキープ、
◎ル・マン24時間レース途中結果(午前9時・18時間経過/ 総合トップ3および各クラストップ)
1.No.5 トヨタTS050ハイブリッド(A.デビッドソン/S.ブエミ/
2.No.6 トヨタTS050ハイブリッド(S.サラザン/M.コンウエィ/
3.No.2 ポルシェ919ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/M.
LMP2
No.36 アルピーヌA460・ニッサン(G.メネセス/N.ラピエール/
LMGTE Pro
No.82 フェラーリ488GTE(G.フィジケラ/T.バイランダー/
LMGTE Am
No.62 フェラーリ458イタリア(W.スウェードラー/T.ベル/J.
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)
12時間を経過したル・マン24時間、6号車トヨタがトップを堅守
スタート時は目まぐるしい天候の変化に振り回された伝統のレース、ル・マン24時間。だが、セーフティカーが戦列を去ると、60台の戦闘車輌は次第に各々のペース配分を意識した走りを見せるようになる。
レース序盤から14周でピットインを行なっていたトヨタ勢。ディフェンディングチャンピオンのポルシェが13周だったのに対し、この1周のアドバンテージが結果的に戦いを有利な方へと導くことになったかもしれない。レース開始6時間を過ぎてトップについた6号車トヨタは、その後もペースを乱すことなく周回を重ねていった。これに対し、ほぼ同様のレース運びを見せていたのが、2号車のポルシェ。ルーティンワークのピットインごとにこの2台が順位を入れ替える新た添いとなった。
一方で、車両トラブルに見舞われたのが1号車のポルシェ。クラッチトラブルに見舞われ、ピット作業が予想以上に長引くことになり、これまで盤石だった体制、レース運びに突如として暗雲が立ち込めてきた。レースはその後、2度にわたるペースカーのコースインで、ライバルとの差が縮まることになったが、やはりその中で安定した速さをキープし続けたのはトヨタ勢。逆に1号車は水温上昇によるウォーターポンプの交換を強いられ、大きくロスタイム。まさかの後退となる。
結果、スタートから12時間が経過して、トップは6号車が堅守。ピットインのタイミングによって2号車が前に出ることもあるが、3番手には5号車トヨタが続き、4番手には8号車アウディが続いている。
◎ル・マン24時間レース途中結果(午前3時・12時間経過/総合トップ3および各クラストップ)
1.No.6 トヨタTS050ハイブリッド(S.サラザン/M.コンウエィ/小林可夢偉)187周
2.No.2 ポルシェ919ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/M.リーブ)+44.469
3.No.5 トヨタTS050ハイブリッド(A.デビッドソン/S.ブエミ/中嶋一貴)+1’41.232
LMP2
No.36 アルピーヌA460・ニッサン(G.メネセス/N.ラピエール/S.リチェルミ)174周
LMGTE Pro
No.82 フェラーリ488GTE(G.フィジケラ/T.バイランダー/M.マルセリ)166周
LMGTE Am
No.88 ポルシェ911RSR(K.アル-クバイシ/D.H.ハンソン/P.ロング)161周
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)
ル・マン24時間レース、6時間を経過し、6号車トヨタがトップに
6月18日、現地時間午後3時にスタートを切った第84回ル・
スタートフラッグを振る予定だったブラッド・ピット、
水しぶきを上げて車両が走る中、
その後は大きなハプニングもなく、
結果、6時間を過ぎて逆転に成功した6号車がレースをリード、
◎ル・マン24時間レース途中結果(21時・6時間経過/ 総合トップ3および各クラストップ)
1.No.6 トヨタTS050ハイブリッド(S.サラザン/M.コンウエィ/
2.No.1 ポルシェ919ハイブリッド(T.ベルンハルト/M.
3.No.5 トヨタTS050ハイブリッド(A.デビッドソン/S.ブエミ/
LMP2
No.46 オレカ05・ニッサン(P.ティリエ/M.ベッシェ/平川亮)
LMGTE Pro
No.82 フェラーリ488GTE(G.フィジケラ/T.バイランダー/
LMGTE Am
No.88 ポルシェ911RSR(K.アル-クバイシ/D.H.ハンソン/
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)
伝統のル・マンから…
今年で開催84回目を迎えるル・マン24時間耐久レース。戦前から行われてきた伝統の一戦は、かつて偉大なる草レースとも言われていたが、今ではアウディ、ポルシェ、そして日本のトヨタが最新のテクノロジーを投入し、過酷な舞台から得た膨大なデータを市販車にフィードバックする場になっている。その一方で、フランス国内に留まらず、ヨーロッパ各地からも多くのレースファンがこぞって押しかける年に一度の大イベントであり、彼らが胸躍らせる“お祭り”でもある。今回は、その現場の様子の一部をお伝えする。
新たな歩みが次の歴史を作る
ピットビルディングにデカデカと貼られたバナーはレースイベントを主催するACO(フランス西部自動車クラブ)プロデュースもの。「伝統は継続される」というメッセージそのものがル・マンの存在を意味するとも言えるだろう。伝統を大事にする一方、イベントの情報発信には最新の手法を積極的に導入。ライブカメラ、携帯端末のアプリなど、世界中にいるル・マンファンがいち早くレースの情報をゲットできるように、とその歩みは留まることがない。この継続する力こそが、新たなる伝統を作る…、そんなメッセージのようだ。
晴れのち雨、雨のち…!?
フォードシケイン側から見たメインスタンド。今年のル・マンは天候変化が激しく、少し晴れ間が見えたかと思ったら、再び急激に雨雲が到来、まるで日本の梅雨みたく、しとしと雨をも降らすという実に先が読めない天気が続いている。
3度のセッションが行われた予選も、回数を重ねるごとに不安定さが増長され、ついにセッション3では、豪雨の中でコントロールを失った車両がスピンする様子は、まるで氷上を走っているかのようだった。
すべてにおいて安泰!? ポルシェの盤石ぶり
今年のポールポジションを獲得した2号車のポルシェ。予選セッション1回目にニール・ジャニがマークしたタイムが結果として今年のポールポジションになるという、珍しい展開となった。とはいえ、ポルシェの仕事ぶりを見る限り、このたびのポールポジションは獲るべくして獲ったものであり、ピット内で空力パーツ、足回りの調整などの細かな作業にじたばたしているライバルたちの様子と比較すれば、明らかにアドバンテージを持って戦っているのは明白と言っていいだろう。
ポルシェはホスピタリティもゴージャス!
パドックに設置されたポルシェのホスピタリティブース。チームスタッフに限らず、スポンサーやレース関係者にもアクセスを許可しており、食事時には前菜、メイン、そしてデザートに至るまでごらんのようなご馳走がズラリと並ぶ。中にはすっかりリラックスしてビールやワインを堪能する方々もおり、日本のサーキットではなかなかお目にかかれないような光景を目にすることができた。
トヨタ、今年は一貴、可夢偉の元F1ドライバーを擁す!
昨年のル・マンではポルシェ、アウディの後塵を拝したトヨタ。その悔しさをバネに今年は新たな車両、ハイブリッドシステムを搭載したTS050をリリースし、長丁場の戦いに向けて着々と準備を進めてきた。5号車のアンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミ、そして中嶋一貴という布陣に変わりはないが、今年の6号車はステファン・サラザン、マイク・コンウェイ、そして新たに小林可夢偉が加わり、日本のファンにとっては、願ってもないドライバーラインナップになったといえる。金曜日のプレスカンファレンス時には日本のBSテレビ取材を揃って受け、ともにリラックスした表情を見せていた。
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)
予選2日目は天候悪化でタイムアップならず。ポルシェがポール獲得
6月16日、予選2日目を迎えた第84回ル・
予選セッション2回目は、気温18度、
1周13.629km、一般公道を含むサルテサーキットゆえ、「
開始から1時間を前に雨はかなり激しい状態となり、GTE・
そんな中、しばしライバルの動向を見守っていたポルシェ勢も、
予選3回目のセッションは午後10時にスタート。
気温15度、路面温度19度の中、
チェッカーが出される深夜12時を前に、
雨に翻弄された3度の予選は、
予選総合結果(各クラストップ)
LMP1 No2 ポルシェ919ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/N.
LMP2 No.26 オレカ05・ニッサン(R.ルシノフ/S.ステヴェンス/R.
GTE Pro No.68 フォードGT(J.ハンド/D.ミュラー/S.ブルデー)3’
GTE Am No.61 フェラーリ458 イタリア(M.W.サン/澤圭太/R.ベル)3’56.827
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)
ル・マン24時間、不安定な天候の中、ポルシェがトップタイムをマーク
6月15日、第84回目ル・マン24時間レースの予選1回目が行われ、昨年の覇者ポルシェが盤石の走行を見せ、暫定ポールポジションを獲得した。
15日は、まず午前4時から4時間にわたるフリー走行を実施。レースウィークに入ってからのル・マンは天候不順の毎日で、この日も午前中は済み廻った青空が広がっていたが、午後に入るとにわかに下り坂へと変わり、いつ雨が降ってもおかしくない状況になった。案の定、小一時間もすると雨がポツリポツリと落ち始め、本降り状態に。その後も降ったり止んだりと、落ち着かない中でタイヤテストやセットアップなどの作業を進めていた。
途中、2度の赤旗中断をはさみ、日差しが出るまで天候が回復すると、今度はポルシェの2台が牽引するような形でタイムアップする車両が続出。セッション終了10分を前に、2号車のポルシェが3分22分011をマークし、トップに躍り出る。結果、このタイムがフリー走行でのトップタイムとなった。
迎えた午後10時。日の入りを前に薄曇りの中で予選1回目のセッションが始まる。開始10分を前に6号車のトヨタを駆るステファン・サラザンが3分20秒737をマーク、トップへ立つと、ライバル達もタイムアップ。まずは僚友である5号車のトヨタがこれに続いた。しかし、その後は先のセッションでトップタイムをマークしていた2号車が3分19秒733を叩き出し、トップに浮上。このままセッション終了まで、このタイムを上回る車両は現れず。連覇に向けて、まずはライバルに向けて軽くジャブを打つことに成功している。
2号車に続いたのは、ポルシェの1号車。トップから0.4秒強差の3分20秒203をマークしている。3番手には6号車のトヨタ、4番手は5号車のトヨタとなり、ポルシェとアウディの間に割って入る形となっている。
◎予選1回目結果(各クラストップ)
LMP1 No2 ポルシェ919ハイブリッド(R.デュマ/N.ジャニ/N.リーブ)3’19.733
LMP2 No.26 オレカ05・ニッサン(R.ルシノフ/S.ステヴェンス/R.ラスト)3’36.605
GTE Pro No.68 フォードGT(J.ハンド/D.ミュラー/S.ブルデー)3’51.185
GTE Am No.61 フェラーリ458 イタリア(M.W.サン/澤圭太/R.ベル)3’56.827
(Text:Motoko SHIMAMURA)
ル・マン24時間、公開車検を終える
6月12、13日、フランスのル・マン市街地において、
今年は84回目!
伝統の一戦を伝えるツールとして、
敗者のままでいいわけない!
昨年はル・マン、
フォードGT、新型車両で参戦
今年お目見えするフォードGTは、かつて1960年代にル・
二世ドライバーもエントリー
ネルソン・ピケ、アラン・プロストと聞けば、
アウディ、今年は優勝なるか
車検を待つアウディのトランスポーターには多くのカメラマンが鈴
一方、トランポからクルマが降りてくると、
恒例の集合写真撮影も終了。
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)
2016年のル・マンは、トップ3の「進化」を比較せよ!
日本列島がほぼ梅雨入りすることとなった6月上旬。日がすっかり長くなったヨーロッパでは様々なスポーツイベントが花盛り。フランスでは、サッカーのユーロカップも始まっているが、モータースポーツ好きであれば、いよいよ恒例の「お祭り」が気になるはず。そう、今年もフランスでのル・マン24時間レースが幕を開ける。すでに第一週目の日曜日にはテストデイが実施され、本戦に向けてのカウントダウンが始まったと言ってもいいだろう。世界の名だたる自動車メーカーが先陣を切って参戦し、その技術の進歩に合わせてレース規則も年々シビアになっているこの戦いで、今年はどんなドラマが生まれるのだろうか。
トヨタ、惨敗からの学び
一昨年、念願のゼッケン1を手にしたトヨタ。だが昨シーズンほど辛酸を舐める戦いはなかったのではないか。というのも、進化した車両で挑んだ戦いでは、ライバルのポルシェ、アウディの更なる進化に及ばず、ディフェンディングチャンピオンとして納得のいかないシーズンを過ごすことになったからだ。そこで首脳陣は2017年からを予定していた新車投入の前倒しを敢行。2年後の予定を1年後にするというのは、レース界においてかなりの荒技。だがしかし、ル・マンに限らず、今や世界耐久シリーズ(WEC)としてシーズンでの戦いを考慮すれば、それしか手段は残されていなかったとも言える。
結果、トヨタは新車「TS050 ハイブリッド」を誕生させ、新たに2.4リッター・V6直噴ターボエンジンというユニットの搭載を決行。またハイブリッドシステムとして、これまで使用してきたキャパシタ式の蓄電装置を廃止、代わりにリチウムイオン電池を採用した。これは、ル・マン24時間という長距離レースで戦う車両の進化としては、保守的な進歩ではなくかなりの革新と言っていい。昨年の惨敗で明白となった弱点を見直し、そこに手を加えるのではなく、新たなアプローチで今年の戦いに挑むことへの決意そのものに他ならない。一方、3.7リッター、V8のNAエンジンからコンパクトなターボエンジンへの変更については、ル・マンだけに限らず、WECというシリーズ戦で、特色をもつ各サーキットを戦うことを見据えたものととらえていいだろう。なんでもターボエンジンのメリットは、レース中の気温の変化やサーキット毎の特性にアジャストさせやすいこと。イギリスを皮切りに、ベルギー、フランス、ドイツを経てアメリカ大陸へ渡り、秋にはアジアへと遠征。最終的に11月のバーレーンまで世界を転戦する過酷な条件下で、より最適なエンジンとしての選択と考えられる。
新車両と新パワートレインでの戦いを迎えるチームには、今季から小林可夢偉がレギュラー参戦。ひと足先にWECデビューを果たしている中嶋一貴とは異なるコンビネーションでの出走だが、F1GP出身の日本人ドライバーがそれぞれの車両をドライブすることは、日本のモータースポーツファンにとって大きな楽しみにもなる。
アウディ、ハイノーズを採用、空力コンセプトを一新
ル・マンで多くの優勝をさらってきたアウディ。2010年から5連覇を達成し、アウディ王国を作り上げたが、昨年はついにポルシェの襲撃に遭い、6連覇達成の夢を阻止されてしまった。アウディはハイブリッドシステムを導入した2012年以来、ディーゼルエンジンを採用。そのパワーユニットは4リッターのV6直噴ターボエンジンであり、電動フライホイールとの組み合わせを継続していた。だが、エネルギーの放出量を4MJから6MJへと変更したことで、ついにリチウムイオンバッテリーへと移行。併せて大幅な空力コンセプトの変更に取り組んだ。結果、「16年型アウディ R18」は、フロント周りのデザインが大きく変わり、見た目からして新たなアイデア投入がはっきり伝わってくる。ハイノーズ化され、またスリムにもなった。これにより、ドライバーが座るコクピットについての見直しも行なうこととなり、着座位置が後方へとスライドされた。同時にマウントするエンジンそのもののサイズも見直され、新たな設計が施されることになり、コンパクトサイズへと生まれ変わった。
開幕戦のイギリスではトップでチェッカーを受けたが、その後、レギュレーション違反が問われ、残念ながら優勝は取り消されるという波乱のシーズン幕開けとなったが、その後は着実にステップアップを見せており、第2戦スパ・フランコルシャンでは8号車が優勝を果たすことに成功。ル・マンでのタイトル奪還を目指し、いい流れを構築しているといえるだろう。
ポルシェ、正常進化による体制強化で連覇へ脇固め
ル・マン復活2年目にして、昨シーズンの覇者となったポルシェ。白地ベースのカラーリングから黒地へと一新したことが、一番の変化と言ってもいいほど、ディフェンディングチャンピオンとして、着実な進歩を果たしているようだ。ライバルたちがパワーユニットやシステム面での変更を加える中、ポルシェは車両のコンセプトをキープ。より速く、より強い「ポルシェ919ハイブリッド」でル・マンの戦いに挑むこととなる。だが、キープという言葉は、当然のことながら「何もしない」わけではなく、今年の戦いにおいて何をすべきか、を熟慮した上で着々と準備を進めているのは当然のこと。関係者の言葉を借りれば、「ゼロから開発をスタートさせている」らしく、去年の戦いで得たライバルとのアドバンテージをさらに広げるべく、進化を続けているということになるだろう。
結果、モノコックは現状キープながら足回りや空力パッケージの見直しを重ねることでよりタフなクルマ作りを実行。ル・マンは耐久レースとはいえ、近年はスプリントレースに負けじと劣らぬ戦いになっているため、ピットでの余分な作業があとあと勝敗を分ける命取りの行為になり兼ねない。それだけに、些細なトラブルさえも事前にシューティングすることで、完成度を高めることが求められる。王者・ポルシェならではのアプローチもあるはずだ。
今年、84回目の大会を迎える伝統のレース。まずは、12・13日の両日に公開車検を実施。夜間セッションでのタイムアタックを含む予選は、15・16日の2日間。市内のパレードで場の空気が一気に盛り上がる17日を経て、土曜日18日の午後3時(現地時間・日本時間は同日午後10時)に号砲を迎える。なお、今年はスタートセレモニーを俳優のブラッド・ピットが担当することがアナウンスされている。王者・ポルシェを軸に、ライバル達の戦略、そしてアプローチに注目だ。
(Text&Photos:Motoko SHIMAMURA)