今年のル・マンはますます激化! アウディ、ポルシェ、トヨタに復活組の日産も!
6月に入り、ヨーロッパではテニスのフレンチ・オープン、イギリスのウィンブルドンとスポーツシーズン全盛期を迎えているが、モータースポーツ界でなによりも最大のお祭りイベントとして名を馳せるのが、フランスで行われるル・マン24時間レースだ。ひと足先にドイツで行われたニュルブルクリンク24時間レースは、草レースの最大級イベントとしてのカラーが濃いが、このル・マンは今やトップメーカーがF1に負けじと劣らぬ最新の技術を競う過酷なレースに変貌した。果たして今年は、どのようなドラマが待ち受けているのだろうか。
■ドイツ、日本のメーカー対決が激化
フランスのサルト・サーキットにまた世界中から耐久レースファンが集まる季節が迫ってきた。今年で83回目のレース開催となる「ル・マン24時間レース」は彼らにとって年に一度のお祭りであり、レースウィーク中、思い思いの形でそのお祭りを堪能する。
一方でレースを戦うメーカーにとっては、24時間という長期戦ですべてが試される厳しい一戦になる。今や、ル・マン24時間レースが世界耐久シリーズ(WEC)の一戦に組み込まれようとも、ル・マンの一戦だけはスペシャルなものであり、この戦いは唯一無二の存在として君臨し続けている。中でも最上クラスのLMP1クラスでしのぎを削るのは、ドイツ、日本を代表する自動車メーカーの直属チーム。常勝アウディは今シーズンのWECでまず2戦2勝と快進撃のシーズンイン。当然、ル・マンでは2010年から続く連勝記録の更新を目指す。その牙城に迫るのが同じドイツのポルシェであり、2012年に復活したトヨタでもある。
昨年、16年ぶりのル・マン復活を果たしたポルシェ。1970~80年代のル・マンを代表する顔であり、それは歴代最多勝利記録をもって証明されている名門チームとして知られる。戦いを重ねるごとに速さに強さが加わり、先日行われたテストデーではトップタイムをマーク。今シーズンの戦いに向けて大掛かりな改善に取り組んだ成果が実を結び始めている。もちろん、アウディとて黙って見ているわけではない。まずはハイブリッドシステムの強化を行い、レース中にそのメリットをしっかりと活かす走りにつなげている。エンジン面での進化に労力を傾けたふたつのチームに対し、トヨタはどう挑むことになるのだろう。シルバーストン、スパ・フランコルシャンの2戦で辛酸を舐めたリベンジ戦ともなるル・マンは、去年、中嶋一貴が自身初となるポールポジションを手にした場所でもある。その中嶋はスパの練習走行中、雨の中で大クラッシュを喫して一時はル・マンへの出場も危ぶまれたが、順調にリハビリも進み、このほど無事本戦への出場がアナウンスされ、身体の最終チェックも兼ねた出走を行い、テストデーを終えている。昨年、中嶋のチームメイトが活躍し、手にしたゼッケン1の重みを共に背負って挑む1号車の目標は、もはやポールポジションではなくル・マンでの総合優勝。その道のりは決してたやすくないが、彼らの底力に注目したい。
■日産、16年ぶりのル・マンへ
遡ること、ほぼ1年前。ル・マン24時間レース開催の前に発表された日産の参戦復帰発表。今か今かと待ちわびた日産ファンも数知れない。近年は「ガレージ56」という、ル・マンを主催するACO(フランス西部自動車クラブ)が2012年から始めた新技術をプロモートするために設けた出場枠を利用し、2012年にデルタウイングで参戦。また2014年にはZEOD RCというレース用ハイブリッドカーとして開発したクローズドボディのプロトタイプレーシングカーでル・マンを出走している。決勝では、電力走行によるサルト・サーキット1周走行を初めて実現させたがレース完走にはほど遠く、新たな技術面をアピールするに留まっていた。
しかし今年は違う。去年正式に発表されたプロジェクトは、ル・マン24時間を始めとするWECへの挑戦であり、かつトップクラスLMP1への参戦というライバルとの真っ向勝負だ。日産にとっては、正式なル・マンでのレース参戦は16年ぶりの復帰となる。開発に時間を要し、当初の予定からスケジュールを大幅に変更。WECは開幕戦はおろか、ル・マン24Hの前哨戦と言われる直前の第2戦スパ・フランコルシャンも欠場、果たしてル・マンに姿を現すことができるのか、と良からぬ噂話も持ち上がったが、テストデーには3台のNissan GT-R LM NISMOがついに姿を披露、出走を果たすこととなった。
■つねに新たな戦いを生み出す場所、それがル・マン24時間レース
近年、ル・マン24時間におけるトップ争いは、つねになにかしらのトピックスが絡んでいる。最新の技術を積極的に採り入れ、そこにチャレンジするのがル・マンの定石だからこそではあるのだが。ガソリンエンジンが主流だった戦いが、ディーゼルエンジンを投入する流れに代わり、次にはガソリンエンジンをベースとするハイブリッドシステムが登場。すると今度はディーゼルエンジンをベースにしたハイブリッドシステムが…というように、初開催から100年を過ぎ、今年で83回目の大会を迎える伝統のレースは、驚くほど進化を求めながら歴史を重ねている。その中で自動車メーカーがしのぎを削る一戦、それがル・マン24時間レースなのだ。
ル・マンウィークのスタートは7・8日の2日間に渡って行われる公開車検から。夜間の走行が取り入れられる予選は10、11日に実施され、12日には市街地でのドライバーズパレードで街全体が一気に盛り上がる。そして迎える決勝は13日午後3時(現地時間・日本時間は同日午後10時)に号砲。伝統の一戦は、次なる歴史を生むためにまた新たなる戦いを繰り広げることだろう。
Text & Photo : 島村元子 / Motoko SHIMAMURA