第94回ル・マン、粘りに粘り、7号車トヨタが戦いを制する
6月13日の午後4時にスタートしたWEC世界耐久選手権第4戦「第94回ル・マン24時間レース」。フランス西部n位置するサルト・サーキットおよび近隣の行動を使用した特設コースでの戦いは、終盤に入りタフな戦いによる影響が出始めた。大きなアクシデントこそなかったが、出来る限りノーミス、ノートラブルに近い状態でレースを遂行させたチームが次第にポジションを上げ、最終盤でトップに立ったNo.7 トヨタTR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース)が今年のル・マンを勝利することとなった。
長い帷が明けてル・マンに青空が戻ってくると、爽やかな太陽が朝から照りつける。午後に向けてぐんぐんと気温、路面温度も上昇。現地では正午を過ぎると路面温度があっという間に40度を超え、気温も25度を超える暑いレースデーとなる。
残り6時間を切り、予選から順調に初ル・マンで奮闘していたジェネシスの1台にトラブルが発生。A.ロッテラーを擁する17号車が、スタートから16時間半を前にしてストップ。ハイパーカークラスで2台目のリタイアとなった。一方で、トップ争いは各車のピットインのタイミングによって都度トップが入れ替わる状態だったが、12号車キャデラック、20号車BMW、そして7号車トヨタが僅差で攻防戦を繰り広げた。
チェッカーまで4時間を切った頃、LMP2で長らくトップを牽引してきた30号車にまさかのアクシデントが襲いかかる。326周目のユノディエールでブレーキトラブルが発生。コースに留まれずコースアウトを喫し、そのままコースサイドにクルマを止めてしまう。これを受けて午後12時40分にはフルコースイエローが導入されたが、およそ8分後に解除されると、リスタートを狙って8号車が12号車から暫定トップを鮮やかに奪い取った。さらにその背後につけていた7号車も畳み掛けるように12号車を逆転。これでトヨタがワン・ツーを形成した。
残り2時間を切って、なお引き続き激しいポジション争いを繰り広げた今年のル・マン。気温は27度、路面温度はついに50度まで上昇。レースウィークで一番過酷なコンディションとの戦いにもなり、まさに神経戦で大終盤を迎えることに。チェッカーまで1時間半となるなか、トヨタ陣営の2台がピットインするなか、ポジション争い中の20号車も同一周回でピットに。356周終わりにこの3台は各自の戦略を採ったが、7号車はフルサービスの作業で小林へとスイッチ。一方、8号車はドライバー交代はせず。20号車もフルサービスでコースへ戻り、7号車を20号車が追うようにコースインした。
残り30分を切って、トップは7号車トヨタ。後続の20号車との差は11秒強。8号車もほぼ同間隔で20号車をつける。この上位3台は最後の最後まで変わらぬペースで周回を重ねるが、ここで気がかりだったのが、バーチャルエナジータンクの残量。暫定トップの7号車が残り30秒の時点でメインストレートのフィニッシュラインを通過したでさらに1周が必要となったが、計算上では1周につき7.6%が必要、と言われていたが、トップ3台の残量は7%とギリギリの状態。前日の午後4時にスタートした戦いから24時間が経過しても、コース上ではまだ上位3台が熾烈な戦いを続けており、何事もなければ優勝とわかっていても、エネルギー残量が僅かな状況が気がかりなピットでは、誰しもが厳しい表情で走るクルマをただ眺めるだけだった。
ハイレベルな駆け引きを最後の最後まで見せたトップ3台は、渾身の走りでファイナルラップを走破。見事、7号車をドライブする小林がトップチェッカーを受けると、不安な空気に覆われて静寂だったピットが一転、歓喜が湧き上がった。これにより、トヨタは4年ぶりの勝利を、また7号車をトップチェッカーに導いた小林としては、5年ぶりの勝利を味わうことになった。
14番手スタートからの大逆転を達成した小林。「レース序盤はタイヤパンクチャーなどで絶望的な状態だったが、最後まで諦めずに頑張ろうと思った。ギリギリで勝てたのはチームの頑張りでもある。勝ててホッとした」と久々の優勝に喜ぶ一方で、チーム代表として安堵の表情も見せた。
LMP2では、チェッカーまで残り4時間を経過しても、なお揺るぎない強さを見せていた30号車デュケーヌ・チームにトラブルが発生。先述のようにユノディエールで事切れた30号車はそのままリタイア。それまで長くトップ争いを繰り広げた343号車にトップが代わった。だが、この343号車に迫ったのが同じチームのNo.43 (ヤクブ・スミエコフスキー/トム・ディルマン/ニコラス・イェロリー)。残り2時間の時点でトップを奪取すると、そのまま後続を引き離す力走でクラストップチェッカー。僚友343号車を従える形で昨年に続く2連覇を達成した。3位にはNo.29 フォレスティア・レーシング・バイ・パニス(ルイ・ルーセ/エステバン・マッソン/オリバー・グレイ)が続いた。また、ル・マン初参戦の太田格之進がチェッカードライバーを務めた9号車は、11位チェッカーとなっている。
LMGT3はレース序盤からトップ争いを続けたNo.27 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3(イアン・ジェームス/ザカリー・ロビション/マティア・ドルディ)が残り2時間を前にしてトラブルでリタイアする一方、レース折り返し時点からトップをキープしていたのがNo.33 シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R。予選17番手から着実にポジションアップを果たしたあとは、圧倒的な強さを最後まで貫く活躍を見せて優勝を遂げた。2位には一時暫定トップに立つ活躍を見せたNo.78 レクサスRC F LMGT3(トム・ファン・ロンパウア/ドリアン・デイビッド/ジャック・ホークスワース)が、3番手にはNo.23 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3(グレイ・ニューウェル/エドゥアルド・バリチェロ/ジョニー・アダム)が続くことになった。また日本人選手として唯一GT3クラスに参戦していたNo.57 フェラーリ296 LMGT3エボ(木村武史/コンラッド・ラウルセン/ダニエル・セラ)は、10位で戦いを終えている。
全クラスにおいて、緊迫のトップ争いが見られた今年のル・マン。今年は天候にも恵まれ、安定したコンディションのなかでの力走が披露され、大きな接触事故などもなく、ほぼ単独でのトラブル等によるセーフティカーやFCY導入に留まった。それゆえ、つねに緊張感ある戦いが続き、そのなかでライバルを出し抜く戦略も含めて完成度の高さが求められることとなった。今やノーミス、ノートラブルは当たり前。今後、ライバルより精度に秀でることを求められる戦いがさらに激化しそうだ。
◎ル・マン24時間レース最終結果(総合トップ3および各クラストップ)
<HYPERCAR>
1.No.7 トヨタTR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース) 381周
2.No.20 BMW Mハイブリッド V8(ロビン・フラインス/レネ・ラスト/シェルドン・ファン・デル・リンデ) +10.913
3.トヨタTR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮) +20.417
<LMP2>
1.No.43 インターユーロポル・コンペティション(ヤクブ・スミエコフスキー/トム・ディルマン/ニコラス・イェロリー) 361周
<LMGT3>
1.No.33 シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R(ベン・キーティング/ジョニー・エドガー/ニッキー・キャツバーグ) 336周
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)

パイパーカークラス優勝:No.7 トヨタTR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース)

LMP2クラス優勝:No.43 インターユーロポル・コンペティション(ヤクブ・スミエコフスキー/トム・ディルマン/ニコラス・イェロリー)

LMGT3クラス優勝:No.33 シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R(ベン・キーティング/ジョニー・エドガー/ニッキー・キャツバーグ)

表彰セレモニー
第94回ル・マン、後半戦はペナルティ、マイナートラブルで動きあり
フランス、サルト・サーキットで開催中のル・マン24時間レース。安定した天候の下、大きなアクシデント等は見られないものの、マイナートラブル等で各車がポジションを変動させつつレースを継続させている。
レース開始直後からつねに上位争いしていた38号車キャデラックにトラブルが発生したのはスタートから12時間を過ぎたころ。3位走行中だった195周にトラブルに見舞われ、ガレージイン。修復作業が始まった。30分弱の時間を経てコースに一旦は復帰するも、再びピットへ。レース開始から16時間を前にガレージのシャッターが降ろされ、レース脱落を迎える。
一方、トップをキープしていたのは12号車キャデラック、これに20号車BMWが続き、FCY中の違反でペナルティを課された8号車トヨタが3番手まで浮上する。なかでも徐々に空が明るくなり始めるころになっても12号車は変わらず安定したペースで周回を重ねた。3台で今年のル・マンに挑んでいるキャデラックだが、ひと足先に38号車がトラブルで後退。その後、残り8時間の時点でリタイアに至った。さらに101号車はFCY中のペナルティで降格。終盤に向けて今なおノートラブル、ノーミスの12号車に、全期待がかかる形になった。
しかし、その12号車にもまさかの事態が発生する。レース開始から17時間を迎える直前、午前8時51分にドライブスルーペナルティが提示される。これは、スローゾーン手順違反によるもの。ペナルティを消化後は、トップには8号車が立ち、20号車、12号車というオーダーへと変わった。ようやくトップまで戻った8号車だったが、開始から18時間を前にしてトラブルに見舞われる。12号車脱落後、20号車との一騎打ちを意識した戦いになったが、タイヤ交換後しばらくして緊急ピットイン。左フロントのブレーキ周りにトラブルが発生したようで、2分12秒強の修復作業を強いられ、4番手へとポジションを落とした。
結果、タイヤ無交換でトヨタとの差を縮めていた20号車がトップを奪取。だが、18時間が過ぎると、再び12号車が速さを活かしてトップ奪還を果たし、これを20号車、そして7号車、8号車が猛追する形となっている。スタートからノートラブルだった12号がペナルティを受けたことで、より安定した戦いを見せているのは20号車に。速さでは12号車がリードしているだけに、残り6時間の戦いでもまだまだスプリントの要素が多い展開になりそうだ。
LMP2クラスは上位陣が安パイの状態。30号車デュケーヌがリードし、これに343号車インターユーロポルがピタリとマークするという神経戦になりつつある。一方、太田格之進が参戦する9号車も表彰台を見据えて力走していたが、18時間を経過した直後に手痛い接触でスローダウン。一時的にマシンをコース上に止めるなどしてポジションを落としている。
LMGT3では、レース開始から10時間を経過したころからトップに立つ33号車が依然としてクラス首位をキープ。これに序盤トップだった27号車が続いている。トップ33号車と同一周回は上位3台となっており、このまま優勝争いに突入する可能性が高そうだ。
現地時間の午前10時、チェッカーまで残り6時間となった時点の総合トップ3および各クラストップは以下のとおり。
◎ル・マン24時間レース途中結果(午前10時・18時間経過/総合トップ3および各クラストップ)気温17度、路面温度22度
<HYPERCAR>
1.No.12 キャデラックVシリーズ.R(ルイ・デレトラズ/ウィル・スティーブンス/ノーマン・ナト) 290周
2.No.20 BMW Mハイブリッド V8(ロビン・フラインス/レネ・ラスト/シェルドン・ファン・デル・リンデ) +58.679
3.No.7 トヨタTR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース) +1’43.508
<LMP2>
1.No.30 デュケーヌ・チーム(ドリアーヌ・パン/ジュリアン・アンドラウアー/リチャード・フェルシュホー) 275周
<LMGT3>
1.No.33 シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R(ベン・キーティング/ジョニー・エドガー/ニッキー・キャツバーグ) 255周
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)

パイパーカークラストップ:No.12 キャデラックVシリーズ.R

ハイパーカークラス3位:No.7 トヨタTR010ハイブリッド
第94回ル・マン、SC導入後に流れ変わる
天候にも恵まれた今年のル・マン24時間レース。スタートから12時間を迎え、いよいよ後半戦へと突入する。序盤の6時間ではさほど大きなアクシデントもなく、順当な展開を見せていたが、日没後、日付が変わる前に初のセーフティカー(SC)導入となり、そこからレースが”動く”ことになった。
幻のポールポジション獲得となった38号車キャデラックが、その速さを強みにしてレース開始5時間後にはハイパーカークラスのトップを奪取。その後も順調に周回を重ねて、レースを牽引。後続車両に対しても28秒強のギャップを生み出していた。これに序盤から上位争いにつける20号車のBMW、さらにはライバルに対して異なる戦略が奏功した8号車トヨタがトップ3を形成し、日没後の戦いに入った。
そんななか、午後11時38分頃、LMGT3の54号車フェラーリ296が追突されてコースアウト。グラベルにスタックして動かなくなる。結果、今大会初となるセーフティカー(SC)がコースイン。このタイミングでトップを走っていた8号車トヨタはじめ、上位陣が一斉にピットを目指してルーティン作業を消化する。一方、SCランはおよそ45分ほど続くこととなり、その間にはレースウィークの余興でもある花火やドローンのショーが行なわれ、ファンはレース展開を気にすることなく夜空の輝きを満喫することができたかもしれない。
SCランは日付が変わり、14日(日)になった12時22分時点で終了となり、レースが再開。この時点でトップに立っていた8号車は逃げの走りを決める。逆に2番手にいた20号車はクラスの異なる車両に前を塞がれることとなり、ギャップが広がる。さらに20号車はペースが上がらず、後方の12号車と38号車のキャデラックに次々と先行を許し、4番手にドロップした。
レースはスタートから9時間を過ぎ、152周目のミュルサンヌを走行中だった8号車トヨタがオーバーラン。これで2番手にいた12号車との差が詰まり、155周目に8号車は12号車に逆転を許してしまう。その後は同じキャデラック38号車も加わり、その後はこの3台によるトップ3の攻防が続く。また、開始から11時間が過ぎた頃にFCYが導入され、時間こそ5分に満たない短いものが2度続いた。ただ、あろうことか再開後に8号車に対してFCY手順違反が課され、ドライブするーペナルティを受けることに。
結果、レース折り返しの12時間を迎えてなお12号車がトップをキープし、これに”復活”した20号車、38号車、そして8号車という態勢になり、そのあとに7号車がつける形となった。
LMP2クラスでは、序盤から安定した速さを見せている30号車デュケーヌ・チームがトップをキープしていたが、SC導入を機に動きが出る。2番手につけていたNo.343 インターユーロポル・コンペティション(ビジョイ・ガーグ/レシャド・デ・ゲルス/ニコ・ミューラー)がギャップを詰め、10時間を経過する頃にはついにクラストップに立つ。だが、30号車も堅調の走りで僅差の周回を続け、12時間経過時点でトップを奪い返した。また、太田格之進がドライブする9号車も徐々にポジションアップを見せ、一時はクラス3番手まで浮上。今後の展開次第では表彰台の可能性もありそうだ。
そして、LMGT3では6時間を過ぎてからマシントラブル等で戦列を去るクルマが出始めた。上位争いでは似通ったタイミングでルーティン作業を行なうため、頻繁にポジションが入れ替わっていたが、日付が代わってからは、No.27 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3(イアン・ジェームス/ザカリー・ロビション/マティア・ドルディ)がトップに立っていたが、これに78号車、87号車のRC F GT3勢もつねに上位をキープする好走を見せる。折り返し時点では、No.33 シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R(ベン・キーティング/ジョニー・エドガー/ニッキー・キャツバーグ)がトップとなっているが、まだこの先もポジションを入れ替えての走行が続くと思われる。
現地時間の午前4時、レース折り返しにあたる12時間が経過した時点の総合トップ3および各クラストップは以下のとおり。
◎ル・マン24時間レース途中結果(午前4時・12時間経過/総合トップ3および各クラストップ)気温17度、路面温度22度
<HYPERCAR>
1.No.12 キャデラックVシリーズ.R(ルイ・デレトラズ/ウィル・スティーブンス/ノーマン・ナト) 193周
2.No.20 BMW Mハイブリッド V8(ロビン・フラインス/レネ・ラスト/シェルドン・ファン・デル・リンデ) +13.233
3.No.38 キャデラックVシリーズ.R(セバスチャン・ブルデー/アール・バンバー/ジャック・エイトケン) +1’08.335
<LMP2>
1.No.30 デュケーヌ・チーム(ドリアーヌ・パン/ジュリアン・アンドラウアー/リチャード・フェルシュホー) 183周
<LMGT3>
1.No.33 シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R(ベン・キーティング/ジョニー・エドガー/ニッキー・キャツバーグ) 170周

レース中に夜空に打ち上げられた花火

LMP2:No.30 デュケーヌ・チーム

LMGT3:No.33 TFスポーツ・シボレー・コルベットZ06 LMGT3.R
第94回ル・マン、キャデラック、BMW、そしてトヨタが奮闘
6月13日、2026年WEC世界耐久選手権第3戦「第94回ル・マン24時間レース」の決勝レースが現地時間午後4時に号砲。スタートから6時間が経過するなか、大きなアクシデント等はなく、僅差でのポジション争いを展開している。
レースウィークのル・マンは比較的爽やかな天気が続き、日が暮れると涼しいコンディションが先行していた。しかし、決勝日はからりと晴れ渡り、日差しも強くなる。スタート時点で気温は28度、路面温度は38度とレースウィーク一番の暑さのなかで長くタフな戦いが幕を開けることになった。
予選ではハイパーポール「H1」敗退に終わったNo.7 トヨタTR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース)とNo.8 トヨタTR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー)。戦略を駆使してポジションアップを狙いたい。7号車にはコンウェイ、8号車にはブエミと、去年と同じ選手がコックピットに収まった。
レースはスタートからさっそく激しいポジション争いを繰り広げる。ポールポジションのNo.15 BMW Mハイブリッド V8(ケビン・マグヌッセン/ラファエル・マルチェッロ/ドリス・ファントール)が出遅れ、2番手のNo.12 キャデラックVシリーズ.R(ルイ・デレトラズ/ウィル・スティーブンス/ノーマン・ナト)がトップを奪取。また4番手からスタートしたNo.20 BMW Mハイブリッド V8(ロビン・フラインス/レネ・ラスト/シェルドン・ファン・デル・リンデ)も前方のNo.35 アルピーヌA424(アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ/シャルル・ミレッシ/フェルディナント・ハプスブルク)を逆転し、その勢いのまま、15号車さらには12号車まで抜き去り、オープニングラップをトップで終える。また、これに12号車、15号車が続いた。
ハイパーカークラスは13周終了までに最初のルーティンピットを実施したのだが、そのなかで真っ先に作業を行なったのが7号車。8周終わりでピットインすると、8号車も翌周にピットへと戻り、給油を済ませる。トヨタ勢は他車より早めのタイミングでピット作業を行なうことで、コース上のトラフィックを回避。その結果、13周が終わると、8号車がトップに立ち、7号車も5番手までポジションを上げた。
戦略を味方にしたトヨタ陣営。レーススタートから1時間が経過すると、8号車は2番手20号車に対して5秒の差をつける。だが、開始3時間を迎えたあと、7号車にはスローパンクチャーが発生。これでイレギュラーのピットインが行なわれ、ポジションを下げてしまった。
その後、コース上のデブリ回収のため、数分にわたる初のフルコースイエローが導入される。このタイミングで上位陣がルーティンのピット作業ではなく、規則上のエマージェンシー給油ストップを行ない、FCY解除の翌周に改めてルーティン作業のピットインを強いられた。
レースはスタートから5時間を前に、”幻”のポールポジションを獲得したNo.38 キャデラックVシリーズ.R(セバスチャン・ブルデー/アール・バンバー/ジャック・エイトケン)が躍進。この時点でトップだった20号車を逆転し、トップを獲得するとその後も安定した速さを披露した。一方、トヨタ陣営では4時間を過ぎると、日本人選手がコースへ。まず、8号車に平川が、そしてその後7号車に小林が乗り込み、日没に向かう時間帯を担当する。
現地時間午後9時59分に日没となったル・マン。レース4分の1にあたる6時間が経過する。この時点でトップは38号車がキープ。27秒ほど後方に20号車が続き、8号車が3番手と戦略が奏功した形となっている。
一方、WECではシリーズ戦は行なわれていないが、ル・マン24時間のみ開催されるLMP2クラスでは、「H2」でトップタイムをマークしたものの、ハイパーポール進出を決める予選セッションで車両妨害のペナルティが課されたNo.29 フォレスティア・レーシング・バイ・パニス(ルイ・ルーセ/エステバン・マッソン/オリバー・グレイ)は、クラス2位からのスタートに。代わってクラスポールからスタートを切ったのは、No.28 IDECスポール (ポール・ラファーグ/バレリオ・リニチェッラ/ヨブ・ヴァン・ウィタート)となる。28号車は安定したペースでトップをキープしていたが、後方から追い上げを見せたのがNo.30 デュケーヌ・チーム(ドリアーヌ・パン/ジュリアン・アンドラウアー/リチャード・フェルシュホー)。6時間を前についにトップに立った。また、今回が自身ル・マンデビューとなった太田格之進もNo.9 プロトン・コンペティションをドライブ。6時間が経過した時点で、チームは10番手につけている。
LMGT3クラスでは、序盤から予選4番手のNo.78 アコーディスASPチーム(トム・ファン・ロンパウ/アドリアン・デイビッド/ジャック・ホークスワース)がリード。H2でクラスポールを獲ったNo.27 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3(イアン・ジェームス/ザカリー・ロビション/マティア・ドルディ)、さらにH2で3番手だったNo.87 レクサスRC F LMGT3(ペトル・ウンブラレスク/クレメンス・シュミット/ホセ-マリア・ロペス)がこれに続いていたが、6時間を前に27号車が87号車を逆転し、トップに。78号車は3位となっている。
スタートから6時間が過ぎ、現地22時を迎えたル・マン。日没を迎えいよいよナイトセッションに突入する。4分の1を終えた時点の総合トップ、および各クラストップは以下のとおり。
◎ル・マン24時間レース途中結果(22時・6時間経過/総合トップ3および各クラストップ)気温25度、路面温度31度
<HYPERCAR>
1.No.38 キャデラックVシリーズ.R(セバスチャン・ブルデー/アール・バンバー/ジャック・エイトケン) 101周
2.No.20 BMW Mハイブリッド V8(ロビン・フラインス/レネ・ラスト/シェルドン・ファン・デル・リンデ) +27.017
3.No.8 トヨタTR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー) +28.970
<LMP2>
1.No.30 デュケーヌ・チーム(ドリアーヌ・パン/ジュリアン・アンドラウアー/リチャード・フェルシュホー) 95周
<LMGT3>
1.No.27 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3(イアン・ジェームス/ザカリー・ロビション/マティア・ドルディ) 89周
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)

13日午後4時(日本時間同日23時)にスタートしたル・マン24時間レース

トヨタ8号車のピット作業

LP2クラス走行
第94回ル・マン24時間、まさかの結末でポールはNo.15 BMW MハイブリッドV8の手に!
第93回ル・マン24時間レースの最終予選であるハイパーポール1およびハイパーポール2が行なわれ、BMW Mチーム WRTのNo.15 BMW Mハイブリッド V8(ケビン・マグヌッセン/ラファエル・マルチェッロ/ドリス・ファントール)がポールポジションを手にした。一方日本のトヨタ・レーシング No.7 トヨタTR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース)とNo.8 トヨタTR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー)の2台はハイパーポール2に進めず厳しい結果に終わっている。
・マイナーチェンジした3段階のノックアウト式で予選を実施
ハイパーポールと呼ばれる最終予選を採用するル・マン。昨年、その内容を改めたが、今年もさらに一部内容に変更が加わっている。全参戦車両は、ハイパーカークラスは単独で、そしてLMP2とLMGT3は混走で予選を行ない、そこから上位の結果を残した車両がそれぞれ「ハイパーポール1(H1)」、さらに「H1」で上位の結果を残した上位10台が出走可能な「ハイパーポール2(H2)」と都度ノックアウトを実施することは、昨年と変わらない。だが、P2とGT3クラスの進出台数が昨年比で3台増加した。
全車出走の予選は、10日(水)に行なわれ、トップクラスのハイパーカークラスでは全18台から上位15台が「H1」に出走。最初の予選で7号車が12位、8号車が8位となったトヨタ陣営は、7号車が小林、8号車はル・マン参戦5回目の平川が初めてH1のアタックを担当した。なお、アタッカーはすべてのセッションで異なるドライバーが出走しなければならない。またLMGT3では、今年パイパーポールに出走可能なドライバーのランクが去年から変更されており、よりスキルの高い選手が出走できることになった。
ハイパーカークラスの「H1」は午後9時5分にスタート。各車タイミングを見計らい、またライバルを牽制しながらのアタックラップを見せるかなか、10日の予選でトップタイムをマークしたNo.35 アルピーヌA424(アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ/シャルル・ミレッシ/フェルディナント・ハプスブルク)が3分23秒018のタイムでまたしてもトップ通過を果たし、これにNo.38 キャデラックVシリーズ.R(セバスチャン・ブルデーアール・バンバージャック・エイトケン)、そして今回がル・マンデビューとなるNo.17 ジェネシスGMR-001ハイパーカー(アンドレ・ロッテラー/ルイス・フェリペ・デラーニ/マティス・ジョベール)がトップ3を形成。
一方で7号車の小林はベストタイムがトラックリミット違反を取られ、タイム抹消に。3分24秒268のタイムが採用された。また8号車の平川はアクシデントに遭遇し、タイムアップならず。こちらも3分24秒578というタイムに留まり、2台は「H2」への進出が絶たれた。結果、H1でアタックを終えたのは、トヨタの2台に加え、No.007 アストンマーティン・ヴァルキリー(ハリー・ティンクネル/トム・ギャンブル/ロス・ガン)、No.50 フェラーリ499P(アントニオ・フォコ/ニクラス・ニールセン/ミゲル・モリーナ)、 No.36 アルピーヌA424(フレデリック・マコウィッキ/ジュール・グーノンビクトール・マルタンス)となった。なお、フェラーリは10日(水)の予選でNo.83 フェラーリ499P(イェ・イーフェイ/ロバート・クビサ/フィル・ハンソン)がひと足先に”脱落”しており、「H2」にはNo.51 フェラーリ499P (アレッサンドロ・ピエール・グイディ/ジェームス・カラド/アントニオ・ジョビナッツィ)のみが出走。昨年ル・マンで優勝と3位に入ったチームとしては、まさかの結果に甘んじることとなった。
「H2」に進出した10台によるアタックには、キャデラックが3台、BMWとジェネシスが2台揃って進出する活躍。残りはアルピーヌ、フェラーリ、アストンマーティンがそれぞれ1台という顔ぶれとなった。
H2でも各車は戦略の違いからか、アウトーインでタイヤを交換してアタックするチームと、そのままアタックラップに挑むチームに分かれた。H1と比べて気温、路面温度に大差はなかったが、ラップタイムが上がり、3分22秒台へと突入する。なかでも着実にタイムアップを果たしたのが、No.15 BMW MハイブリッドV8(ケビン・マグヌッセン/ラファエル・マルチェッロ/ドリス・ファントール)。ラストアタックで3分22秒564をマークし、後続との差を一気に離した。これでポールポジションが確定するかと思われたが、チェッカーフラッグが振られるなかでアタック中だった38号車が3分22秒559を叩き出し、トップに浮上。これで、H1で2番手につけていた38号車が15号車に対して1000分の5秒差でポールポジションを掴み取った”はず”だった。
しかしながら、その後、このタイムが削除されることに。H2のアタックに向かうなか、指示を待たずに作業レーンを離れてファーストレーンに進入したことが審査対象となり、該当タイムが取り消されるという裁定が下されたのだ。こうしてキャデラックによる2年連続のポールポジションは幻に終わり、10番手へ。代わって15号車がポールポジションを手にし、No.12 キャデラックVシリーズ.R(ルイ・デレトラズ/ウィル・スティーブンス/ノーマン・ナト)が2番手、そして予選開始から安定感を見せ続けた35号車が3番手に。なお、初ル・マンで2台揃ってH2まで駒を進めたジェネシスは、19号車が6番手、17号車が9番手と奮闘した。
・LMP2とLMGT3は、混走でのアタックに
ハイパーカークラスに先んじて行なわれたLMP2とLMGT3クラスのH1およびH2。LMP2クラスは全チームがオレカ07・ギブソンの車両を使って出場する。
日本からの参戦、かつル・マン初挑戦となる太田格之進がドライブするプロトン・コンペティションの9号車(ヨナス・リード/太田格之進/ハリー・キング)もH1出走の権利を得ており、H1に太田が出走した。しかし、ベストラップと思われたタイムはトラックリミット違反扱いとなり、セカンドタイムがチームベストタイムとして採用され、惜しくもトップ10までに残れず。H1ではクラス最後尾の15位となった。
H2でトップタイムをマークしたのは、H1で3番手につけていたフォレスティア・レーシング・バイ・パニスの29号車(ルイ・ルーセ/エステバン・マッソン/オリバー・グレイ)。逆にH1でトップだったインターユーロポル・コンペティションの43号車(ヤクブ・スミエコフスキー/トム・ディルマン/ニコラス・イェロリー)は4番手に後退した。H2で2番手に浮上したのは、IDECスポールの28号車(ポール・ラファーグ/バレリオ・リニチェッラ/ヨブ・ヴァン・ウィタート)だった。
一方、LMGT3クラスでは、No.27 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3(イアン・ジェームス/ザカリー・ロビション/マティア・ドルディ)がH1、H2ともにトップタイムを叩き出す活躍。2番手にはNo.21 フェラーリ296 LMGT3エボ(フランソワ・エリオ/サイモン・マン/アレッシオ・ロベラ)、3番手にはかつてトヨタのハイパーカークラスでも活躍していたホセ-マリア・ロペスが加入するNo.87 レクサスRC F LMGT3(ペトル・ウンブラレスク/クレメンス・シュミット/ホセ-マリア・ロペス)がそれぞれ続いた。
2回にわたって行なわれた各クラスのハイパーポールが終了し、その後、4回目のフリープラクティスが1時間に渡って行なわれた。あとは、いよいよ決勝日にあたる13日(土)にウォームアップを経て決勝スタートを待つばかり。”スプリントレース”を彷彿させる長く過酷な年に一度の戦いが号砲を迎える。
第94回ル・マン24時間レース予選(ハイパーポール)各クラストップ3
<ハイパーカー>
1.No.15 BMW MハイブリッドV8(ケビン・マグヌッセン/ラファエル・マルチェッロ/ドリス・ファントール) 3’22.564
2.No.12 キャデラックVシリーズ.R(ルイ・デレトラズ/ウィル・スティーブンス/ノーマン・ナト) 3’23.078
3.No.35 アルピーヌA424(アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ/シャルル・ミレッシ/フェルディナント・ハプスブルク) 3’23.620
<LMP2>
1.No.29 オレカ07・ギブソン(ルイ・ルーセ/エステバン・マッソン/オリバー・グレイ) 3’32.855
2.No.28 オレカ07・ギブソン (ポール・ラファーグ/バレリオ・リニチェッラ/ヨブ・ヴァン・ウィタート) 3’33.242
3.No.24 オレカ07・ギブソン(デビッド・ハイネマイヤー・ハンソン/エドワード・ピアソン/ジャック・ドゥーハン) 3’33.510
<LMGT3>
1.No.27 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3(イアン・ジェームス/ザカリー・ロビション/マティア・ドルディ) 3’52.433
2.No.21 フェラーリ296 LMGT3エボ(フランソワ・エリオ/サイモン・マン/アレッシオ・ロベラ) 3’53.412
3.No.87 レクサスRC F LMGT3(ペトル・ウンブラレスク/クレメンス・シュミット/ホセ-マリア・ロペス) 3’53.614
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)

ハイパーカークラスのポール:No.15 BMW MハイブリッドV8

LMP2クラスのポール:No.29 オレカ07・ギブソン

LMGT3クラスのポール:No.27 アストンマーティン・バンテージAMR LMGT3
2026年 ル・マン24時間レース プレビュー
かつてない激戦が予想される今年のル・マン
日本列島では沖縄、九州、中国、そして近畿地方までが梅雨入りしているが、ヨーロッパでは湿度もなく初夏の陽気を堪能できるベストシーズン。夜も9時くらいまで夕方のような明るさがあり、観光にももってこいの頃を迎えている。そんな恵まれたコンディションのなかで開催されるレースが伝統の「ル・マン24時間レース」だ。フランスのサルト・サーキットと市街地の一部をコースに、今週末には24時間のタフな戦いを繰り広げる。新規チームの参戦もあり、どのような展開となるのが見どころも多そうだ。
中東情勢で揺らぐシリーズ戦だが…
FIA世界耐久選手権のシリーズ第3戦として開催されるル・マン24時間レース。もともとは3月末にカタールで開幕戦を迎える予定だったが、中東情勢の問題を受けて延期され、4月中旬にイタリア・イモラでの6時間レースが開幕戦として行なわれている。その後、5月上旬にベルギーのスパ・フランコルシャンで同じく6時間の戦いを繰り広げた。シリーズ後半戦は、9月開催の日本(富士)大会後にカタールやバーレーンでのレースがスケジュールされているが、依然としてくすぶり続けるイラン、イスラエル間の緊迫した状況によっては再びリスケジュールという流れになる可能性も残っている。
一方、ル・マンでの1戦。一時はトップクラスに参戦するメーカーが減ったときもあったが、最近はトヨタをはじめ、フェラーリ、プジョー、BMWといった日欧のブランド力に優れた自動車メーカーが参戦しており、またアメリカのキャデラックも精力的に参戦しており、世界中の自動車好き、レース好きから人気を博している。結果、サーキットで観戦するファンも増えており、チケットも販売と同時にすぐ完売、という声を聞く。2024年には33万人に近い観客が動員され、史上最多を記録したとのこと。果たして今年はどれほど多くのファンが戦いの行方を現地で見守るのだろうか。
■4連覇を狙うフェラーリに勝算はあるのか?
ハイパーカークラス(LMH)には、8メーカー18台が参戦。トータルで見れば、昨年から3台減となる。メーカーとしては、ポルシェがハイパカークラスでの参戦から2025年いっぱいで撤退。3シーズンにわたりLMDhマシン「ポルシェ963」を投入してきたポルシェだが、そのオペレーションを一手に引き受けてきたペンスキーが独自に参戦を継続させる手段を模索していたようだが、WECでは「1メーカーあたり2台」、さらに「WECへのシリーズ参戦」という規定を設けており、残念ながら念願叶わなかった。
代わって今年から新規参戦となったのが、ジェネシスだ。自動車メーカーとしての名前ではなく、高級車のブランド名だ。トヨタにおけるレクサス、といったところか。母体となるのは、韓国の自動車メーカーであるヒョンデ(現代自動車)。今では、2015年にヒョンデから独立した高級車専門ブランドとなっている。WEC参戦を目指し、ヒョンデのプレミアムブランドとして大規模な開発プログラムに着手し、ついに今シーズンからWEC参戦を果たしたのだが、そのメインドライバーを務めているのが、日本のレースファンにも馴染みあるアンドレ・ロッテラー。WECのシリーズ戦が2012年にスタートすると、同年にアウディ、2024年にはポルシェでシリーズチャンピオンを獲得しており、また、ル・マンでもこれまで3度総合優勝を果たした”レジェンド”でもある。そのロッテラーを擁し、初のル・マンに挑むため、注目度も高い。
最大の注目となるのは、やはりフェラーリだろう。GTカークラスに長らく参戦していたフェラーリがハイパーカークラスに復帰したのは2023年。フェラーリ499Pを投入して以来、なんとル・マンは3連勝中。無敗を誇る強豪は、第1戦、第2戦と優勝は逃しているが、ル・マンでは当然のことながら4連覇達成を目論む。ファクトリーチームであるフェラーリAFコルセが走らせる50号車、51号車に加え、2台の運営母体となるレーシングチーム”AFコルセ”がプライベーターとして参戦する83号車が過去3年間でそれぞれ勝利しているため、まずはチームでも激しい”内戦”となりそうだ。なお、先述のようにWECではメーカーが公式エントリーできるのは2台までに制限しているため、83号車は、AFコルセの名前で独立した形でのエントリーとなっている。
日米チームも強力なライバル
もっとも、この跳ね馬の牙城を崩すライバルの存在を忘れてはならない。日本のトヨタもそのひとつだ。同チームは、2018年から2022年にかけてル・マンを5連覇。コロナ禍で無観客開催となった年も奮闘し、勝利したことは記憶に新しい。昨シーズンはラミュファクチャラーズランキング2位、ドライバーズランキングでは7号車(M.コンウェイ/小林可夢偉/N.デ・フリース)が6位、8号車(S.ブエミ/B.ハートレー/平川亮)が7位に留まったが、今シーズンは開幕戦で8号車が勝利。7号車も3位に続き、2台が揃って表彰台に上がった。このル・マンで好成績を残して大量得点を挙げてシリーズ中盤に臨みたいところだろう。オフシーズンにはGR010 HYBRIDに広範囲にわたるボディワーク変更を施したことの効果か、開幕戦での結果によって復調の兆しを見せている。ル・マンを足がかりにして王座奪還への期待が高まる。
そして、近年活躍が目立つのが、アメリカのチームだ。昨年のル・マンでポールポジションを獲得したのがキャデラック。昨年は決勝グリッドでフロントローを独占。1967年以来となるアメリカ車による総合ポール獲得を果たし、大いに話題を集めた。今年はキャデラック・ハーツ・チーム・JOTAに加え、キャデラックWTRがIMSA参戦の招待枠で出場。メーカーとして見るとフェラーリ同様3台体制となるため、強固な戦いが可能とあって”アメ車”ファンからの応援を味方にポールポジション獲得は当然ながら、悲願のル・マン初制覇を狙うことになる。なにしろ、2027年には同じアメリカのフォードがハイパーカークラスに復活するため、”同郷”キャデラックとしては、ここで勝利したいところ。3台をドライブする9選手のうち、クラス優勝を含めて5選手がル・マンでの優勝経験を持つのも強みだろう。折しもフォードがル・マンで初優勝してから今年で60年にあたる。ル・マンの長い歴史を語るなかで、フォードとフェラーリの対決は避けて通れない。そこに来年からはフォードとキャデラックというアメリカンメーカーの対決も始まることから、今年はなにがなんでもその前に総合優勝を果たしたい、というのがキャデラックとしての想いであるに違いない。
スプリント化する24時間レースは、いっそう熾烈な戦いに
かつてル・マンは、マシンの信頼性とチームの忍耐力が勝敗を左右すると言われた。壊れたパーツを修理し、そこから追い上げてポジションアップして上位入賞することもあった。だが、壊れないための創意工夫が施され、技術の進化によって壊れていたものが壊れなくなった。クルマやタイヤの性能と信頼性が飛躍的に向上し、ドライバーのスキルと合わせ、スプリント化へと舵を切っている。1度のタイヤバーストですらもはや致命傷になると言われており、ひと昔とは比べ物にならないほどの熾烈な戦いへと変貌を遂げている。
それを表すデータがある。なんと、24時間という長い時間を走った結果、2024年、2025年大会ではいずれも総合優勝争いがわずか10数秒差で決着しているのだ。また、2024年は参戦した9台のハイパーカーが同一周回でチェッカーを受けている。もはやル・マン24時間を制するには、ノートラブル、ノーミスで戦うことが求められるのだ。一瞬のミスやわずかな判断の差が勝敗を分けるため、ステアリングを握るドライバーはもちろんだが、陣営を司るエンジニアリングやピット作業を担うメカニックたちのスキルもより高度化している。
新たな予選方式を導入
公式テスト後は、10日(水)から本格的なサーキットでの走行が始まる。2度の練習走行セッションと予選が行なわれるが、今年はその予選においてハイパーポール進出枠が拡大された。近年のル・マンでは、予選上位車両によるシュートアウト方式「ハイパーポール」を採用。まず予選は、昨年同様にクラスごとに分離して行ない、LMP2/LMGT3とハイパーカーがそれぞれ30分間のセッションを戦う。これにより、各クラス上位15台が11日(木)のハイパーポールに進出するが、P2とGT3クラスの進出台数が昨年比で3台増加した。ハイパーポールは、去年から導入された2段階で実施。最初のハイパーポール1(H1)では、各クラス15台が20分間のセッションを実施して11〜15番手のグリッドを確定。上位10台のみが最終ラウンドにあたるハイパーポール2(H2)へ進出する。そして、各クラスのポールポジションを確定する「H2」は各クラス15分間のタイムアタックで実施。ここでポールポジションを含む各クラスのトップ10グリッドが決定するという流れだ。
水曜、木曜の予選セッションが終わると、金曜日のサーキットでは一切の走行を行なわず、オートグラフセッションという日本のレースイベントでいうところのピットウォークが実施される。加えてル・マン市内で行なわれる恒例のドライバーズパレード等のイベントで街全体が年に一度のお祭りムードへと突入する。今週末のル・マンは曇りから晴れと現時点では比較的安定した天候になる模様。とはいえ、長い戦いゆえに天候以外の不確定要素がどのタイミングで発生しても不思議ではない。さまざまなドラマが起こりうる長い一日をうまく”やりすごす”ことができたチームが、表彰台の真ん中に立つはずだ。
1923年の初開催以来、世界最高峰の耐久レースとして歴史を重ねてきたル・マン24時間。モナコGP、インディアナポリス500と並ぶ“モータースポーツ界の三冠”のひとつとして知られる特別な一戦が、今年も迫りくる。
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)


