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2026年 ル・マン24時間レース プレビュー




かつてない激戦が予想される今年のル・マン
 

日本列島では沖縄、九州、中国、そして近畿地方までが梅雨入りしているが、ヨーロッパでは湿度もなく初夏の陽気を堪能できるベストシーズン。夜も9時くらいまで夕方のような明るさがあり、観光にももってこいの頃を迎えている。そんな恵まれたコンディションのなかで開催されるレースが伝統の「ル・マン24時間レース」だ。フランスのサルト・サーキットと市街地の一部をコースに、今週末には24時間のタフな戦いを繰り広げる。新規チームの参戦もあり、どのような展開となるのが見どころも多そうだ。
 

中東情勢で揺らぐシリーズ戦だが…

FIA世界耐久選手権のシリーズ第3戦として開催されるル・マン24時間レース。もともとは3月末にカタールで開幕戦を迎える予定だったが、中東情勢の問題を受けて延期され、4月中旬にイタリア・イモラでの6時間レースが開幕戦として行なわれている。その後、5月上旬にベルギーのスパ・フランコルシャンで同じく6時間の戦いを繰り広げた。シリーズ後半戦は、9月開催の日本(富士)大会後にカタールやバーレーンでのレースがスケジュールされているが、依然としてくすぶり続けるイラン、イスラエル間の緊迫した状況によっては再びリスケジュールという流れになる可能性も残っている。
 

一方、ル・マンでの1戦。一時はトップクラスに参戦するメーカーが減ったときもあったが、最近はトヨタをはじめ、フェラーリ、プジョー、BMWといった日欧のブランド力に優れた自動車メーカーが参戦しており、またアメリカのキャデラックも精力的に参戦しており、世界中の自動車好き、レース好きから人気を博している。結果、サーキットで観戦するファンも増えており、チケットも販売と同時にすぐ完売、という声を聞く。2024年には33万人に近い観客が動員され、史上最多を記録したとのこと。果たして今年はどれほど多くのファンが戦いの行方を現地で見守るのだろうか。
 

■4連覇を狙うフェラーリに勝算はあるのか?

ハイパーカークラス(LMH)には、8メーカー18台が参戦。トータルで見れば、昨年から3台減となる。メーカーとしては、ポルシェがハイパカークラスでの参戦から2025年いっぱいで撤退。3シーズンにわたりLMDhマシン「ポルシェ963」を投入してきたポルシェだが、そのオペレーションを一手に引き受けてきたペンスキーが独自に参戦を継続させる手段を模索していたようだが、WECでは「1メーカーあたり2台」、さらに「WECへのシリーズ参戦」という規定を設けており、残念ながら念願叶わなかった。
 

代わって今年から新規参戦となったのが、ジェネシスだ。自動車メーカーとしての名前ではなく、高級車のブランド名だ。トヨタにおけるレクサス、といったところか。母体となるのは、韓国の自動車メーカーであるヒョンデ(現代自動車)。今では、2015年にヒョンデから独立した高級車専門ブランドとなっている。WEC参戦を目指し、ヒョンデのプレミアムブランドとして大規模な開発プログラムに着手し、ついに今シーズンからWEC参戦を果たしたのだが、そのメインドライバーを務めているのが、日本のレースファンにも馴染みあるアンドレ・ロッテラー。WECのシリーズ戦が2012年にスタートすると、同年にアウディ、2024年にはポルシェでシリーズチャンピオンを獲得しており、また、ル・マンでもこれまで3度総合優勝を果たした”レジェンド”でもある。そのロッテラーを擁し、初のル・マンに挑むため、注目度も高い。
 

最大の注目となるのは、やはりフェラーリだろう。GTカークラスに長らく参戦していたフェラーリがハイパーカークラスに復帰したのは2023年。フェラーリ499Pを投入して以来、なんとル・マンは3連勝中。無敗を誇る強豪は、第1戦、第2戦と優勝は逃しているが、ル・マンでは当然のことながら4連覇達成を目論む。ファクトリーチームであるフェラーリAFコルセが走らせる50号車、51号車に加え、2台の運営母体となるレーシングチーム”AFコルセ”がプライベーターとして参戦する83号車が過去3年間でそれぞれ勝利しているため、まずはチームでも激しい”内戦”となりそうだ。なお、先述のようにWECではメーカーが公式エントリーできるのは2台までに制限しているため、83号車は、AFコルセの名前で独立した形でのエントリーとなっている。
 

日米チームも強力なライバル

もっとも、この跳ね馬の牙城を崩すライバルの存在を忘れてはならない。日本のトヨタもそのひとつだ。同チームは、2018年から2022年にかけてル・マンを5連覇。コロナ禍で無観客開催となった年も奮闘し、勝利したことは記憶に新しい。昨シーズンはラミュファクチャラーズランキング2位、ドライバーズランキングでは7号車(M.コンウェイ/小林可夢偉/N.デ・フリース)が6位、8号車(S.ブエミ/B.ハートレー/平川亮)が7位に留まったが、今シーズンは開幕戦で8号車が勝利。7号車も3位に続き、2台が揃って表彰台に上がった。このル・マンで好成績を残して大量得点を挙げてシリーズ中盤に臨みたいところだろう。オフシーズンにはGR010 HYBRIDに広範囲にわたるボディワーク変更を施したことの効果か、開幕戦での結果によって復調の兆しを見せている。ル・マンを足がかりにして王座奪還への期待が高まる。
 

そして、近年活躍が目立つのが、アメリカのチームだ。昨年のル・マンでポールポジションを獲得したのがキャデラック。昨年は決勝グリッドでフロントローを独占。1967年以来となるアメリカ車による総合ポール獲得を果たし、大いに話題を集めた。今年はキャデラック・ハーツ・チーム・JOTAに加え、キャデラックWTRがIMSA参戦の招待枠で出場。メーカーとして見るとフェラーリ同様3台体制となるため、強固な戦いが可能とあって”アメ車”ファンからの応援を味方にポールポジション獲得は当然ながら、悲願のル・マン初制覇を狙うことになる。なにしろ、2027年には同じアメリカのフォードがハイパーカークラスに復活するため、”同郷”キャデラックとしては、ここで勝利したいところ。3台をドライブする9選手のうち、クラス優勝を含めて5選手がル・マンでの優勝経験を持つのも強みだろう。折しもフォードがル・マンで初優勝してから今年で60年にあたる。ル・マンの長い歴史を語るなかで、フォードとフェラーリの対決は避けて通れない。そこに来年からはフォードとキャデラックというアメリカンメーカーの対決も始まることから、今年はなにがなんでもその前に総合優勝を果たしたい、というのがキャデラックとしての想いであるに違いない。
 

スプリント化する24時間レースは、いっそう熾烈な戦いに

かつてル・マンは、マシンの信頼性とチームの忍耐力が勝敗を左右すると言われた。壊れたパーツを修理し、そこから追い上げてポジションアップして上位入賞することもあった。だが、壊れないための創意工夫が施され、技術の進化によって壊れていたものが壊れなくなった。クルマやタイヤの性能と信頼性が飛躍的に向上し、ドライバーのスキルと合わせ、スプリント化へと舵を切っている。1度のタイヤバーストですらもはや致命傷になると言われており、ひと昔とは比べ物にならないほどの熾烈な戦いへと変貌を遂げている。
 

それを表すデータがある。なんと、24時間という長い時間を走った結果、2024年、2025年大会ではいずれも総合優勝争いがわずか10数秒差で決着しているのだ。また、2024年は参戦した9台のハイパーカーが同一周回でチェッカーを受けている。もはやル・マン24時間を制するには、ノートラブル、ノーミスで戦うことが求められるのだ。一瞬のミスやわずかな判断の差が勝敗を分けるため、ステアリングを握るドライバーはもちろんだが、陣営を司るエンジニアリングやピット作業を担うメカニックたちのスキルもより高度化している。
 

新たな予選方式を導入

公式テスト後は、10日(水)から本格的なサーキットでの走行が始まる。2度の練習走行セッションと予選が行なわれるが、今年はその予選においてハイパーポール進出枠が拡大された。近年のル・マンでは、予選上位車両によるシュートアウト方式「ハイパーポール」を採用。まず予選は、昨年同様にクラスごとに分離して行ない、LMP2/LMGT3とハイパーカーがそれぞれ30分間のセッションを戦う。これにより、各クラス上位15台が11日(木)のハイパーポールに進出するが、P2とGT3クラスの進出台数が昨年比で3台増加した。ハイパーポールは、去年から導入された2段階で実施。最初のハイパーポール1(H1)では、各クラス15台が20分間のセッションを実施して11〜15番手のグリッドを確定。上位10台のみが最終ラウンドにあたるハイパーポール2(H2)へ進出する。そして、各クラスのポールポジションを確定する「H2」は各クラス15分間のタイムアタックで実施。ここでポールポジションを含む各クラスのトップ10グリッドが決定するという流れだ。
 

水曜、木曜の予選セッションが終わると、金曜日のサーキットでは一切の走行を行なわず、オートグラフセッションという日本のレースイベントでいうところのピットウォークが実施される。加えてル・マン市内で行なわれる恒例のドライバーズパレード等のイベントで街全体が年に一度のお祭りムードへと突入する。今週末のル・マンは曇りから晴れと現時点では比較的安定した天候になる模様。とはいえ、長い戦いゆえに天候以外の不確定要素がどのタイミングで発生しても不思議ではない。さまざまなドラマが起こりうる長い一日をうまく”やりすごす”ことができたチームが、表彰台の真ん中に立つはずだ。
 

1923年の初開催以来、世界最高峰の耐久レースとして歴史を重ねてきたル・マン24時間。モナコGP、インディアナポリス500と並ぶ“モータースポーツ界の三冠”のひとつとして知られる特別な一戦が、今年も迫りくる。
 
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)

 
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