2025年 ル・マン24時間レース プレビュー
予測不可能な戦いはル・マンならでは
モータースポーツ好きなら、6月の一大イベントとしてすぐ思い出すのが、「ル・マン24時間レース」。おそらくテニス好きなら全仏オープンやウィンブルドン選手権をイメージするのと同じだ。今年で93回目の開催を迎える伝統のル・マン。今年は、6月14日から15日にかけて決勝レースが行なわれる。自動車技術の最先端を導入する一方、しばらく参戦から遠ざかっていた名門が次々復活を遂げるなど、つねに話題に事欠かないイベントだが、果たして今年はどんなドラマを繰り広げてくれるのだろうか。
WEC第4戦というよりも、”ル・マン24時間”
伝統のル・マン24時間レースが、FIA世界耐久選手権のシリーズ戦に組み込まれてからもう随分と長いシーズンが流れているが、今年のWEC第4戦の戦いというより、どうしてもル・マン24時間レースという独立したイベントとして捉えてしまう。それだけ他のシリーズ戦と違って特別感が強いということだろう。
今年のル・マンのハイパーカー(LMH)クラスには、8メーカー21台がエントリー。LMGT3クラスには24台が名乗りを挙げている。なかにはシリーズに参戦していないチームもいるし、別途開催されているヨーロッパ・ル・マン・シリーズ(ELMS)からは、LMP2クラスの17台が参戦するため、合計62台が勢揃いすることになる。常設コースの「ブガッティサーキット」(1周約4.2km)と一般公道を合わせ、1周13.6kmという長いコースで競う戦いだが、62台ものクルマが次々と疾走する姿はまさに圧巻! これぞ伝統の耐久レースというインパクトがある。
最高峰クラスのハイパーカーに集うのは、トヨタをはじめ、ポルシェ、フェラーリ、アルピーヌ、ポルシェ、アルトンマーティン、キャデラック、BMW、プジョーの8メーカー。細かくは「LMH」、「LMDh」に区分された規定車が混在している。一方、9メーカーが参戦するLMGT3クラスから出走する車両には、アストンマーティン・バンテージ、シボレー・コルベットZ06、フェラーリ296、BMW M4、マクラーレン720S、メルセデスAMG、フォード・マスタング、レクサスRC F、ポルシェ911と名だたるGT3カーがズラリ。なかでも注目は、四半世紀を超えてWEC参戦となるメルセデス。復帰したクルマのカラーリングは、もちろん”シルバーアロー”仕様になっており、往年のファンを喜ばせている。さらに、マクラーレンも1995年にF1 GTRでル・マンに初出場&優勝を果たした記念の年から30周年を迎えるため、何かと話題に事欠かない。ここにオレカ07・ギブソンを使用するLMP2が加わり、グリッド制限の上限ギリギリとなる合計62台が24時間という長い戦いに臨むことになる。
レース本番1週間前のテストデーはトヨタがトップタイム
一般公道を含むコースを走るル・マン。このため、事前のテスト走行は欠かせない。今年は、6月8日(日)に公式テストが実施され、参戦する車両は包括的なプログラムメニューにそってセットアップやタイヤのフィーリングを確認する一方、ライバルとの比較等、目に見えない”駆け引き”もあり、本番に向けて徐々にモチベーションが高揚する時間を過ごしている。また、これに先立ち、6、7日にはル・マンの市街地で行なわれる公開車検も実施されており、すでに街なかがお祭り騒ぎ状態となったのは言うまでもない。
テストデーは晴れのコンディションながら、午前中の気温は15度止まりでやや肌寒いコンディション。午後に向けて気温は上昇したが曇り空が先行するなかで、各車がセットアップを進めた。予選を意識したアタックシミュレーションに着手するチームも多く、そのせいか、セッション中盤、さらには終了30分を前にして赤旗中断というシーンも。やや荒れ模様のセッションはチェッカーを目前にして3回目の赤旗を招くほどだった。そのなかでトップタイムをマークしたのは、セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮組のNo.8 TOYOTA GR010 HYBRID。ハートレーがアタックを務め、幸先良いスタートを切ることができたようだ。
なお、トヨタにとって、今年はル・マン初挑戦から40周年を迎える節目(参戦は今年で27回目)の年にあたる。これを記念し、トヨタでは参戦車両にスペシャルカラーリングを施して登場する。過去のル・マンの戦いで5勝を挙げ、ポールポジションは8度獲得。表彰台に上がった回数は18回だが、今年目指すのは、2022年以来となる総合優勝。今シーズンの戦いを振り返ると、これまでの3戦で優勝は果たしておらず、厳しい戦いが続いている。だが、2台揃って3戦連続でポイント獲得をキープ。マニュファクチャラーズランキング2位でル・マンへと乗り込む。
予選、そして決勝に向けて
公式テスト後は、11日(水)から本格的なサーキットでの”お仕事”がスタートする。まず、2度の練習走行セッションと予選を実施。練習走行の間に行なわれる予選で、上位15台のハイパーポール進出を決定する。栄えある15台は、翌12日(木)に行なわれる2度のハイパーポールでポールポジションを目指すのだが、ここが去年までの方式と大きく異なる。
昨年までは、予選で各クラス上位8台、計24台がハイパーポールに進出して上位グリッドを確定していた。だが、今年は、ハイパーカークラス上位15台と、LMP2およびLMGT3クラス上位12台ずつの2つに区分。各々2回のハイパーポールを実施するのだが、すべての車両が2回のアタックを行なうのではなく、まず最初のハイパーポールを「H1」と名付け、ハイパーカークラスはうち上位10台が2回目のハイパーポール「H2」に進出できる。一方、LMP2およびLMGT3クラスでは、「H1」のそれぞれ上位8台が「H2」へ駒を進めることができる。さらに、H1とH2で同じドライバーがアタックすることは認められておらず、加えて必ずブロンズドライバー、いわゆるノンプロのジェントルマンドライバーがアタックすることになる。出走台数をふるいかけたり異なるドライバーが出走するのは日本のSUPER GTの予選方式と似ているが、LMP2およびLMGT3クラスでは必ずジェントルマンドライバーの出走を義務付けているのが、いかにも”ル・マンならでは”のルールと言えるだろう。参考までに、テストデーでの各クラストップタイムを刻んだのは、LMP2クラスでは、No.22 ユナイテッド・オートスポーツで、LMGT3は、No.87 アコーディスASPチームのレクサスRC Fだった。
なお12日は、ハイパーポールのほか、前日に続いて練習走行も行なうが、これで決勝を前にした走行セッションはすべて終了となる。天気予報では、日中の気温もしっかりと上がるようで、テストデーとはまた異なるセッションでのアタックが繰り広げられそうだ。翌13日(金)は、市内で実施される恒例のドライバーズパレード等のイベントが行なわれ、ル・マンの街はレース一色に変わっていく。
そして迎える決勝。現在、土曜、日曜とも本降りの雨は回避できそうだが、なにしろ24時間レースゆえ、突然の天候の変化も否めない。そのなかで、トラブルフリーで真の実力をいかに発揮するか。予測不可能なドラマが幾重にも重なり、思いもしない展開になるのか。あるいは、今シーズン序盤から安定感に秀でた常勝チームのフェラーリがル・マンでも勝利するのか。はたまた、シーズン開幕以降、辛酸を嘗め続けているトヨタが劣勢を一気に覆すのか。どのような結末になろうとも、ル・マンならではのドラマを今年も見ることができるのは、言うまでもない。
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)