マニュアルR35は本当に存在した。彼らがそれを実現した方法が、これだ。 詳細ページ(27388) - イベント・レースレポート

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マニュアルR35は本当に存在した。彼らがそれを実現した方法が、これだ。




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6速、3ペダル、そしてAWD。このGT-Rには、すべてが詰まっている。
 

マニュアルR35 GT-Rは本当に存在した。6速MT、3ペダル、そしてAWD──すべてを兼ね備えた理想形を、日本人チューナーがついに実現させたのだ。
 

R35型GT-Rは、17年という異例のロングライフを誇ったこと以上に、現代スポーツカーの歴史において極めて重要な存在だ。ローンチコントロールという快感を世界に広めた先駆けであり、まだ一般的でなかった時代に驚異的な完成度のトラクションマネジメントとスタビリティコントロールを実現していた。そして何より、そのデザインは今なお色褪せることなく、2000年代の登場当時と変わらぬ存在感を放ち続けている。
 

ただひとつ、R35において「しっくりこない」と感じられていた部分があるとすれば、それはトランスミッションだった。デビュー当初に搭載されていた6速DCTは、変速のたびに車体がガクガクと揺れるほど粗削りなものだった。その後改良が重ねられ、約20年にわたるモデルライフの終盤には、さすがに大きな進化を遂げていた。昨年試乗した最終モデルでは、完璧とは言えないまでも、「悪くはない」レベルには到達していたのだ。
 

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写真:Robin Trajano|Motor1

 
そこに登場したのが、究極の解決策を提示したCrewch(クルウチ)だ。彼らが手掛けたのは、なんとマニュアルトランスミッションを搭載したR35 GT-R。Crewchは2002年に来内良彦(くるうち・よしひこ)氏によって創業された日産系チューニングの名門で、京都の南東に位置する関西圏を拠点に活動している。チューニングショップとしての機能はもちろん、自社ミュージアムまで構えており、敷地内には「ミスターGT-R」こと田村宏志氏のチューンドR32をはじめ、400台にもおよぶ歴代日産車がずらりと展示されている。
 

 
だが、Crewchの真骨頂はそのコレクションではない。本当の見どころは、彼らが生み出す「狂気のクリエイション」たちだ。たとえば2023年の東京オートサロンで初披露された600馬力のフェアレディZドラッグマシン──その存在こそ、Crewchというチューナーの本質を物語っている。
 

だが、その中でも飛び抜けて「イッてる」のが、Crewchの「妄想系」マシン──GT-R356Cだ。過激なボディキットを全身にまとい、「未来のGT-Rとは何か?」という問いに対する彼らなりの答えを造形化した一台である。GT-R50やHyper Forceといったコンセプトカーに触発されて誕生したこのマシンは、完成度という点では元ネタに及ばないかもしれない。だが、おそらくあなたの心をより強く惹きつけるのは、やはり彼らの最新作──マニュアルR35のほうだろう。
 

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写真:東京オートサロン
 

このマシンの本当の美しさは、ボディの内側──つまりメカニズムにある。R35の駆動系は車両構造の根幹そのものであり、単なるミッション載せ替えで済むような代物ではない。R35は独自のAWDトランスアクスル方式を採用しており、フロントのVR38DETT V6エンジンから伝達されるトルクは、ドライブシャフトを介してリアに搭載されたトランスミッションへと送られるという、極めて特殊なレイアウトなのだ。
 

このレイアウトで前輪を駆動するには、リアのトランスアクスルから再びフロントへと伸びる「もう一本のドライブシャフト」が必要になる。つまり、前後をつなぐ2本のプロペラシャフトが必要なのだ。この構造が、GT-RならではのAWDシステムを残したままマニュアルトランスミッションを搭載しようとする者にとって、最大の壁となる。
 

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写真:Crewch
 

R35において駆動系は「車そのもの」とも言えるほど根幹に位置しており、マニュアル化は決して単なる載せ替えで済む話ではない。
 

Crewchのチームがこの課題に答えを出すまで、実に12か月の歳月を要した。とはいえ、トランスミッションの選定自体は迷いがなかった。採用されたのは、R34 GT-Rと同じ6速・ゲトラグ製233型。血統としては申し分ないが、レイアウトはまったく異なる。R34に搭載されていたATTESA(Advanced Total Traction Engineering System for All-Terrain)機械式AWDは、トランスミッション前方から短いプロペラシャフトで前輪に駆動力を送る設計。電子制御化されたR35のAWDとコンセプトこそ似ているが、そもそもミッションの搭載位置が違う──つまりR34は「前に」、R35は「後ろに」あるのだ。
 

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写真:Crewch
 

写真を見れば一目瞭然だが、このレイアウトをR35のセンタートンネル内に収めるのは至難の業。それでもCrewchのチームは、限られたスペースにすべての構成をきっちり詰め込むことに成功している。新たな駆動系をしっかりと固定するために、複数の補強ブレースや専用マウントブラケットをワンオフ製作。写真では、それらのパーツがイエローに塗られており、細部へのこだわりが垣間見える。
 

トランスミッションが変わったことで、ファイナルギア比も当然異なる。とはいえ、ゲトラグ233が持つ3.545という比率は、R35のDCTに採用されていた3.7にかなり近く、実用上まったく問題はないという。むしろCrewchいわく、このわずかにロングなギア比こそが、チューンドR35にとっては「ちょうどいい塩梅」なのだとか。
 

朗報なのは、このシステムを組み込んでもAWD機能はしっかり維持されているという点だ。ただし採用されているのは、R35の電子制御式ではなく、R34世代の「旧型」機械式ATTESAシステム。それでも、そのダイレクトな駆動フィールには独特の魅力がある。
 

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写真:Crewch

 
そして残念ながら悪いニュースもある。R35に標準装備されていた高度なトラクション&スタビリティ制御システムの数々は、今回の仕様ではすべて無効化されているのだ。だが、3ペダルを選ぶような走りに飢えたドライバーにとっては、それこそがむしろ解放。電子制御に頼らず、クルマと真っ向から対話する──そんなピュアな体験を求める者には、むしろ望むところだろう。
 

Crewchの担当者は、このマニュアルR35の加速タイムについて具体的な数値を明かすことは避けたものの、「DCT仕様よりは確実に遅い」とはっきり認めている。とはいえ、それは当然の話。クラッチを踏み、シフトレバーを動かすのに人間が要する時間は、DCTのように150ミリ秒では済まないのだから。
 

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写真:Crewch

 
つまりこのR35は、「史上最速のGT-R」ではないかもしれない。だが、「運転して楽しいR35」という点では、間違いなくトップクラスに入る一台だ。そして、朗報をもうひとつ──この仕様、欲しければ実際に手に入る。Crewchは現在、ここで紹介しているプロトタイプ車両を使って最終的なフィッティングとテストを行っており、再現可能なキットとして販売するための専用治具や工具の開発も進めている最中だ。
 

今後4〜6か月以内にその開発プロセスを完了し、販売開始を目指しているという。気になる総費用だが──中古のゲトラグ233を用い、コンバージョン作業をすべてCrewchに依頼した場合、そのコストはおよそ630万円。為替レート次第ではあるが、現時点でのドル換算で約4万5000ドルほどとなる。
 

もしゲトラグ233を自前で用意できるなら、コンバージョン込みの費用はグッと下がり、インストール込みでおよそ350万円(約3万5000ドル)程度に抑えられるという。
 

もちろん、作業を依頼するにはクルマを三重県まで運ぶ必要がある。ただし、キットが完成すれば海外向けの販売も視野に入れているとのこと。関税などの条件次第ではあるが、実現すれば世界中のGT-Rファンにとって朗報となるはずだ。詳細はCrewch公式サイト(https://crewch.com/)で随時確認してほしい。ただしひとつ注意点──Crewchのスタッフは英語が通じないので、そのつもりで。
 










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