現実離れした暴れん坊-555kWを叩き出すRB26搭載R34スカイライン
記事提供元:NZ Performance Car
ライター:Todd Wylie
フォトグラファー:Rixsta Sammons
手を加えられないほど完璧なR34 GT-Rがすでにあるなら、それを超える一台を自ら創るしかない。
「最初、このプロジェクトを信じてくれる人なんて誰もいなかったんだよ(笑)」そう語るのは、このR34スカイラインのオーナー、サミール・クマール。彼はニュージーランド・ウェリントンに拠点を置くチューニングショップ『Forged Development』の代表。日々、数々のチューンドカーを世に送り出している彼にとって、こうした作業はまさに日常茶飯事。ただし今回は、自分自身の「愛車」。お客のための1台じゃないからこそ、遠慮も制限もゼロ。すべてを自分の理想通りに振り切って、仕上げることができた——そこが決定的に違った。
スタート地点は、日本から輸入された事故歴あり&登録不可のR34 GT-R。だが、サミールはそんなことまったく気にしなかった。今や価値がうなぎ登りのGT-Rを大胆にイジるのは、もはや得策じゃない。だからこそ「どうせ公認が取れないなら、遠慮なくやれる」——それがむしろ追い風だった。地元で探し出したベース車はR34 GT-T。しかも自宅からほど近く、条件もバッチリ。GT-TとGT-Rのボディは基本的にほぼ共通で、外装の移植はスムーズ。……とはいえ、4WDだけは話が別。GT-Rのシャシーには前軸用のクリアランスが確保されているが、GT-Tにはそれがない。つまり、4WD化という選択肢は最初から除外だった。
もちろん、サミールに「本物のGT-R」を作るつもりなんてなかった。FRであること自体が、このクルマの楽しさを際立たせている。そんな彼のビジョンに応えたのが、ドナーから移植されたRB26DETT。チューニング屋のオーナーらしく、エンジンには並々ならぬこだわりが注ぎ込まれた。まずは即バラして、ブロック単体の状態に。各部の精密加工を施したうえで、Nitto製ストローカーキットを組み込み、排気量は2.8Lへと拡大。ヘッド周りも抜かりなく、Brian Crowerのステージ3カム&バルブに、Ferrea製の強化バルブまで投入。次なるステップは、純正ツインターボを捨て去ってのシングル化。選ばれたのは、巨大なMaster Power C365。2基のTiALウエストゲートとともにセットされ、見た目からして只者じゃない。ちなみにこのタービン、メーカーいわく「1100馬力オーバーを狙いつつレスポンスも欲しい人向け」——つまり、目指す方向はお察しの通りだ。こうなってくると、点火も燃料も並の構成ではついてこれない。点火系は信頼のR35コイル、燃料系は1200ccインジェクター+ワンオフの燃料レールで、フルチューンRBにふさわしい供給体制を築き上げている。
市販のRB用フューエルレールはいくらでもある。だがサミールは、そこには頼らなかった。彼のショップの一角には、CNC加工の匠として知られるBruce Graham──通称Five13 Fabrication──が同居しており、必要なワンオフパーツはその場で製作可能。だからこそ、このマシンには既製品ではなく「作りたいものを作る」という贅沢がふんだんに盛り込まれている。
エンジンを載せる前に、まずはボディ。彼の理想の姿をカタチにするには、やるべき作業が山ほどあった。当初から狙っていたのは、言わずと知れた名色・ベイサイドブルー。R34 GT-R純正カラーの中でも屈指の人気を誇るその色を纏わせることは決まっていた——が、サミールにはまだいくつか「仕込み」があった。
その中でも最大の仕掛けは、「GT-Rに見せる」こと。具体的にはワイドなリアフェンダー——ただし、純正以上にワイドでありながら、あくまで「純正らしさ」は崩さない。この絶妙なバランスを実現するため、ワンオフで製作されたリアワイドフェンダーは、295/30R18のNankang AR1を履いた18×10J(+15)のTE37レプリカを、余裕で呑み込むキャパシティを持たされている。
エクステリアは、見た目だけなら「完全にGT-R」。それもそのはず、ドナー車から外装の純正GT-Rパーツをすべて移植しているからだ。フェンダーやボンネットといった目立つ部分だけでなく、ドア、トランク、サイドマーカーに至るまで——徹底的にGT-Rのディテールを追求。仕上げにはベイサイドブルーを全塗装。さらにN1タイプのサイドスカート&リアバンパーアドオンをさりげなくプラスして、ルックスを引き締めた。とはいえ、サミールが「これだ」と確信したのは、TEINの3WAY車高調を入れて、車高を「ドンピシャ」の高さにセットしたときだった。そこではじめて、彼の中でこのマシンの姿が完成した。
エンジンが搭載されると、エンジンルームも一気に本気の空気に包まれる。ワンオフのインマニ、Nittoのカムカバー、そして大胆に使われたカーボンパーツたち——見た目だけでも十分に目を引くが、この空間には見えない部分にも妥協は一切ない。「長く、安定してパワーを出し続けること」つまり、冷却系は丸ごと入れ替え。大容量アルミラジエーターに高風量タイプの電動ファンを組み合わせ、そのほか細部にも無数のワンオフ処理が施されている。
GT-R純正の4WD用ミッションは当然使えない。そこで採用されたのは、RB25用の5速「ビッグボックス」。ただしノーマルのままでは終わらない。中身はPPG製のギアセットに換装され、クラッチはMP AutopartsとForged Developmentによるワンオフのツインプレート仕様。そして、背負うトルクに見合うべく、リアデフも強化。4.22:1のファイナルギア、大容量ビレットヘッド、さらにCusco製LSDを組み合わせて、FRレイアウトでもしっかりと路面を蹴り出せる足腰が与えられている。
予想どおり、インテリアもフルGT-R仕様。内装一式を丸ごとGT-Tのボディに移植し、見た目も雰囲気も完全にGT-Rそのもの。結果、このマシンは事実上「FRのGT-R」として完成。間近で見ても、気づかない人がいてもおかしくないレベルにまで仕上げられている。
製作には、仕事やレース活動の合間を縫って丸2年。このビルドを疑っていた連中を、サミールは見事に黙らせた。見た目はセンス良く仕上げられたGT-Rそのもの。しかし、その本性は見た目以上に凶暴だ。駆動はFRオンリー。だからこそ、ブーストがかかるとギアなんて関係なしに一気に蹴り出す。「どこ見ていいかも、何につかまっていいかも分からなくなる(笑)」と語るサミール。だが同時に、「2.8L化されたRB26が8000rpmまでブン回る音は、まさに幸せそのもの。荒々しいのに滑らかで、しっかり踏ん張る」とも。もちろん、彼のような業界の人間にとって、完成なんて言葉は存在しない。撮影中にはすでに、次なるモディファイ計画の話もポロリ。──「もっとパワーを…」と。555kWでも、まだ終わらない。
※本記事は『New Zealand Performance Car』誌 第308号に掲載されたものを翻訳・再構成したものです。
SPEC SHEET:1998 Nissan Skyline GT-T (ER34)
エンジン仕様 |
エンジン本体:RB26DETT(2600cc 直6)、ブロック:R34 GT-R N1ブロック+Nitto製2.8Lストローカーキット、ヘッド:RB26DETTヘッド 、Brian Crower ステージ3レースカム、Brian Crower バルブ、Ferrea デュアルバルブスプリング+リテーナーキット、ポート研磨&フローテスト済み、吸気系:Forged Development製インマニ 、排気系:Forged Development製ワンオフ4インチマフラー+Adrenaline Rサイレンサー、タービン:Master Power C365、ウエストゲート:TiAL製48mm×2基 、ブローオフバルブ:TiAL製50mm、燃料系:1200ccインジェクター、ワンオフ燃料レール、GFB製燃圧レギュレーター 、点火系:R35 GT-R用コイル 、ECU:Link G4、冷却系:アルミラジエーター 、その他:高風量電動ファン、シリコンホース、Cometic MLSメタルヘッドガスケット |
駆動系 |
ミッション:RB25DET用5速“ビッグボックス”ミッション(PPGギアセット組み込み済) 、クラッチ:MP Autoparts × Forged Development製 ワンオフ ツインプレートクラッチ、フライホイール:NISMO製 軽量フライホイール、デフ:NISMO製 ストリート用4.22ファイナルギアセット、ビレット大容量デフヘッド 、その他:CUSCO製LSD |
足回り・制動系 |
サスペンション:TEIN製 3WAYアジャスタブル車高調、ブレーキ:フロント:Endless製キャリパー/APR製360mmローター/Endlessレーシングパッド、リア:Brembo製キャリパー/APR製360mmローター/Endlessレーシングパッド アーム・補強類:NISMO製 リアクロスメンバーブレース、NISMO製 フロア下補強バー、GKTech製 デフブレース、Whiteline製 スタビライザーキット、Hakon製 調整式アーム一式 |
ホイール&タイヤ |
ホイール:Volk Racing TE37 レプリカ(18×10J +15)、タイヤ:Nankang AR1(295/30R18) |
エクステリア |
ペイント:ベイサイドブルー(TV2)/フル純正R34 GT-R Vスペックコンバージョン(ボンネット、フロントバンパー、サイドフェンダー、ヘッドライト、ドアミラー、ウィンドウ、ドア、トランク、リアウイング、サイドスカート、テールランプ、サイドウインカー)/ワンオフリアワイドフェンダー(純正よりさらにワイド)/ワイドボディ対応スチール製フューエルキャップ(ワンオフ)/N1サイドスカートアドオン/N1リアバンパーアドオン |
インテリア |
シート:R34 GT-R純正シート/ステアリング:R34 GT-R純正ステアリング/メーター:NISMO製320km/hスケールメーター、R34 GT-R純正MFDディスプレイ/その他:R34 GT-R内装フルコンバージョン一式 |
性能 |
出力:555kW(ホイール)、トルク:770Nm、ブースト圧:22psi、燃料:BP Ultimate 98(オクタン価98)、セッティング:Chris(Prestige Tuning Motorsport & Dodson Motorsport) |
オーナー情報 |
ドライバー/オーナー:サミール・クマール、年齢:38歳、居住地:ニュージーランド・ウェリントン、職業:Forged Development Ltd 代表、製作期間:約2年、所有年数:約3年 |
Special Thanks |
Five13(精密CNC/モータースポーツファブリケーター)、レースエンジニア、Fahrenheit Cafe、OnPoint Vehicle Grooming、TBG(The Bava Group Construction)、Advance Wheel Repairs、Detail Driven、All Fab Fabrication、Forged Development Motorsport Division、Prestige Tuning Motorsport、Dodson Motorsport、ST Hi-Tec、Repco Lower Hutt、Penrite Oils、NZ Wiring Ltd、Carboglass 2.0、そしてForged Developmentチームの皆さんへ感謝! |