終盤も雨でひと波乱。戦いを制したのは50号車フェラーリ!
24時間の長時間レースが残り4分の1となり、依然として先行き不透明な天候に左右される展開となった今年のル・マン。正午からしばらく安定したドライコンディションが確保されたものの、チェッカーが近づくと次第に天候が悪化。最終的に、”雨のル・マン”の接近戦を制したのは、50号車のフェラーリ499P (アントニオ・フォコ/ミゲル・モリーナ/ニクラス・ニールセン)だった。
レース開始から18時間が過ぎ、現地時間の午前10時32分に3回目のSCランが解除。各クラスとも長いSCランでギャップが縮まり、ハイパーカークラスでは2号車の2 キャデラックVシリーズ.Rを先頭に、5号車のポルシェ963、そして8号車トヨタGR010ハイブリッドの3台がトップ3を形成した。一方、スタートではクラス最後尾だった7号車のトヨタは5位まで挽回。ハードプッシュの走りを見せていたが、レース再開から10分もしないうちにペースダウン。突如パワーダウンするトラブルが発生、応急処置として手動でパワーを復活させて走行を続ける。その後も、左前タイヤのパンクに見舞われてイレギュラーのピットインを強いられたが、粘りの走りで周回を重ねていった。
正午を過ぎたル・マン。残り4時間に入り、レース序盤ではトップを走行していた83号車のフェラーリがハイブリッド系トラブルでガレージイン。修復叶わず、最終的にガレージのシャッターが下ろされて戦列を離れる。そんななか、トップを走行していた2号車のキャデラックVシリーズ.Rは、降り出した雨とルーティンのピットインのタイミングが見事に合致。ライバルチームがドライタイヤからウエットタイヤへの交換のためにイレギュラーピットインを強いられるのを横目に、しばしトップをキープする走りを見せた。逆に8号車のトヨタはタイヤ交換の際、右フロントタイヤにインパクトレンジが入らず大きくタイムロスを喫したことでライバルの先行を許すことになり、チェッカーまで残り2時間のタイミングで6番手へとポジションを下げる。その後は順調に表彰台圏内で走行を続けていたが、ミュルサンヌコーナーで51号車のフェラーリ499Pとの接触でスピン。グラベルを経由しコースに復帰はできたものの、大終盤に思わぬ形でポジションを下げることとなった。
トップ2を形成してチェッカーを目指していた50、51号車のフェラーリだが、51号車はのちに8号車への追突でピットストップ時に5秒停止のペナルティが課せられ、また、トップの50号車は走行中にドアが開くというハプニングが発生。50号車にはピットに戻ってのトラブルシューティングが求められた。2台は慌ただしいレース内容でともにポジションを下げたが、もともとレースペースが良かったこともあり、その後の粘りの走りが結実。50号車はポジションを挽回して再びトップに立つ驚異のパフォーマンスを見せつけた。
チェッカーが1時間後に近づくなか、雨の走行が続くも50号車は依然としてトップをキープ。2番手には数多くのアクシデントを乗り越えてペースアップしてきた7号車トヨタが続き、3番手は51号車という形に。最後まで6号車のポルシェが残る表彰台の一角を狙って51号車に迫ったが、結局好機に恵まれることはなかった。トップを走る50号車は、バーチャルエナジータンクの残量が一桁になる窮地に陥るも、見事なマネージメントを見せて午後4時2分にトップチェッカー! 311周を走破し、フェラーリとしてハイパーカークラス2連覇を達成することとなった。
14秒221という僅差で2位に続いたのは、クラス最後尾からスタートした7号車トヨタ。逆境をバネにベストを尽くした結果といえる。3位には、昨年のウィナーである51号車フェラーリ。ポールポジションスタートの6号車ポルシェ963が4位に続き、8号車トヨタは5位でチェッカーを受けた。
このほか、日本人ドライバーが参戦するLMP2クラスでは、レース折り返しから183号車のオレカ07・ギブソンが長くクラストップに立っていたが、残り3時間を過ぎてズルズルと後退。変わって22号車のオレカ07・ギブソンがトップに立ち、そのままクラス優勝を果たした。なお、宮田莉朋がドライブした37号車のオレカ07・ギブソンは、チェッカーまで1時間を切るなか、痛恨のスピン。ガレージに一旦クルマを入れての作業を強いられる。その後はコース復帰を果たしてチェッカーは受けたものの、大終盤で表彰台が手からこぼれ落ちる悔しい結果に甘んじた。
LMGT3では、スタートから20時間を前にした時点で濱口弘と佐藤万璃音が出走した95号車のマクラーレン720S LMGT3エボが惜しくもリタイアに。逆に91号車のポルシェ911 GT3 R LMGT3が順調にクラストップを周回して流れもそのままに、クラスウィナーとなっている。また、星野敏がいる777号車のアストン・マーティン・バンテージAMR LMGT3は9位、木村武史の87号車レクサスRC F LMGT3は10位、そして小泉洋史の82号車シボレー・コルベット206 LMGT3.Rは11位でチェッカーを受けることとなった。
雨の影響を受けてアクシデントが発生、計3回、およそ7時間近くSCランとなった今年のル・マン。レースが再開すると常に攻防戦が繰り広げられ、最後の最後まで戦いの行方がわからないという緊迫の展開を見せた。また、トップの50号車はチェッカーまで残り10分を迎える中で、バーチャルエナジータンクが示すエネルギー量がカツカツの状態になりながらも、冷静なレース運びでトップ争いをコントロール。昨シーズンからWEC最高峰クラスに復帰し、ル・マンでの過酷な戦いで連勝を遂げたフェラーリの底力を垣間見れたレースでもあった。
第92回ル・マン24時間レース最終結果(総合トップ3および各クラストップ)
<HYPERCAR>
1.No.50 フェラーリ499P(A.フォコ/M.モリーナ/N.ニールセン)311周
2.No.7 トヨタGR010ハイブリッド(J-M.ロペス/小林可夢偉/N.デ・フリース)+14.221
3.No.51 フェラーリ499P(A.ピエール・グイディ/J.カラド/A.ジョビナッツィ)+36.730
<LMP2>
1.No.22 オレカ07・ギブソン(O.ジャービス/B.ガーグ/N.シーゲル)297周
<LMGT3>
1.No.91 ポルシェ911 GT3 R LMGT3(Y.シャヒン/M.シューリング/R.リエツ)281周
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)