2024年 ル・マン24時間レース プレビュー
さらにタフな戦いへと向かう今年のル・マン
耐久レース好きに留まらず、モータースポーツファンであればなにかと気になる6月の耐久レース。それが「ル・マン24時間レース」だ。1年で一番日が長くなる夏至に向かう週末にイベントを開催することで知られる伝統の一戦が、6月15、16日に決勝レースを迎える。昨年、大会が始まってから100周年を迎えた歴史あるレースだが、近年はメーカーが最先端技術を惜しみなく投入して激しいバトルを展開する。果たして、今年はどんな様相を見せるのか。
9メーカーが最高峰クラスに参戦する大盛況ぶり
最高峰クラスに「ハイパーカー」がお目見えしたのは、2021年。メーカーが生産するロードカーの”頂点”とでも言おうか。正確には、ル・マン24時間レースを含むWEC_世界耐久選手権における最上位カテゴリーの車両の名称となる。それまでLMP1という呼称でカテゴリーが存在したが、これに取って代わるものが、このハイパーカーだった。初年度からこのカテゴリーで参戦してきたのがトヨタ。それまでル・マンを戦ってきたライバルメーカーたちはしばし”休戦”モードに突入し、トヨタはライバル不在のなかで戦ってきた。だが、翌年にはフランス・プジョーが復活、23年に入るとフェラーリ、ポルシェ、キャデラックが参戦を再開、そして、今年はなんとBMW、ランボルギーニらがデビュー。結果、9メーカー(マニュファクチャラー)が参戦するという最多の状況に。最高峰クラスに23台が勢揃いするとあって、大盛況となっている。
WECとしてのシリーズ戦では、このハイパーカークラスとLMGT3でレースを開催しているのだが、これまでWECを”支えてきた”クラスとして、ル・マンではLMP2の存在も欠かせない。いわゆるプライベーターチームの参戦クラスだったLMP2に対し、ル・マンの大会では門戸を広げ、参戦を認めている。現在、LMP2は、ヨーロッパ・ル・マン・シリーズ(ELMS)としてシリーズを開催しているが、今年のル・マンには16台がエントリー。歴史あるレースならではの”懐の深さ”を感じずにはいられない。ちなみに、今年から欧州でレース参戦中の宮田莉朋もル・マンデビューを迎えるひとりだが、彼のチームがこのLMP2に該当する。なお、宮田はトヨタのハイパーカークラスのリザーブドライバーでもあるため、ル・マンでの練習走行では両クラスで走行するという珍しい経験をしており、これもまたル・マンならではのトピックだったかもしれない。
こうして、今年はグリッド制限上限となる合計62台という大所帯となるル・マン。去年は、デビューしたばかりのフェラーリがトヨタとの激しい一騎打ちを展開。ル・マン6連覇がかかっていたトヨタにとって伝統あるレーシングチームとの攻防戦は見ごたえたっぷりで、ときに目まぐるしく変わる天候に影響を受けることも少なくない状態だった。結果、50年ぶりにワークスとしてトップクラスに復活したフェラーリに軍配が上がり、”ティフォシ”(フェラーリの熱狂的なファン)が歓喜した。2位に続いたトヨタとの差は、なんと1分21秒強。24時間走り続けた先の差がわずかこれだけとは、多くの人が驚愕したはずだ。かつては24時間という、とてつもなく長くタフな戦いゆえに、一度や二度のトラブルに見舞われてもきちんと修復してコースに復帰すれば表彰台の一角が狙えるものでもあった。しかし、今やル・マンは24時間延々と続くスプリントレースへと姿を替えつつある。いや、もう変わってしまっている。ステアリングを握るドライバーに限らず、レースをオペレートさせる首脳陣含め、参戦チームのスタッフはみな24時間のひりひりとした”スプリントレース”に臨むことになる。
ポルシェがテストデーで好走
24時間の戦いを前に、ル・マンは長いレースウィークに入る。まず、先週8、9日の2日間で公開車検を実施。街を上げてのイベントとなり、賑わいを見せるのがル・マンにおけるこの季節の”風物詩”でもある。さらに、9日にはテストデーを実施。ル・マンのサーキットと公道を繋げて1周13km超の特設サーキット(サルト・サーキット)での走行が始まる。3時間のセッションを午前と午後にそれぞれ行ない、速さを見せたのはポルシェ。ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツの6号車ポルシェ963が前評判どおりのパフォーマンスを披露している。これに僚友の4号車が続き、さらにもう1台のシスターカーである5号車が4番手と3台が上位に並んだ。一方、優勝奪還を目論むTOYOTA GAZOO Racingは、8号車トヨタGR010ハイブリッドがポルシェに続く3番手に。一方、昨年ル・マンを制したフェラーリ勢のAFコルセは50号車フェラーリ499Pが5番手につけている。これを見る限り、ポルシェ、トヨタ、そしてフェラーリによる三つ巴になるのでは、という見方もあるが、ウィングレスで話題を集めた地元フランスチームのプジョー・トタルエナジーズはどうか? テストデーでのタイムは、94号車のプジョー9x8が13番手どまり。今シーズンの車両はウィングを装着するスタイルへと変貌を遂げたが、まだ上位浮上の足がかりは見つかっていないのだろうか? 今年、ル・マンデビューを果たすBMW MチームWRTのBMW MハイブリッドV8が快走することになれば、ますます肩身が狭くなるかもしれない。
ル・マンのみのLMP2は、前述のとおり日本人ドライバーの宮田莉朋がクール・レーシングの37号車オレカ07・ギブソンを駆る。すでにTGRのハイパーカーのリザーブドライバーでもある宮田だけに、まずはLMP2でしっかりとル・マンそのものをフルに体験し、ハイパーカーデビュー実現へ大きく歩みを進めてほしい。
この他、参戦する日本人ドライバーはハイパークラスにふたり。TGRの小林可夢偉(7号車)と平川亮(8号車)はもうおなじみだろう。残るはLMGT3クラスに5名がエントリーしている。そのなかで日本のチームとして参戦するのは、Dステーション・レーシング。777号車にベテランの星野敏が参戦する。今シーズンからはSUPER GTへも復帰した同チーム。先日の第3戦鈴鹿では見事シーズン初優勝を果たしているだけに、その相乗効果にも期待できるかもしれない。
このあとのル・マンは、まず12日(水)から本格的な走行セッションがスタート。午後2時から3時間のフリープラクティス1、その2時間後の午後7時から1時間の予選を行なう。ここで上位に入った車両が、翌日13日(木)の夜に実施するハイパーポールへ進出することができる。その後、ナイトセッションでの走行として、午後10時から2時間のフリープラクティス2を行なう。翌日も午後3時から3時間のフリープラクティス3を行ない、さらに日没が近づく午後8時、いよいよ30分間のハイパーポールを実施する。各クラス上位8台がアタックチャンスに挑み、総合ポールポジションはじめ、各クラスのポールポジションを確定。その後、再びナイトセッションでの走行として、午後10時から2時間のフリープラクティス4を行ない、決勝前の走行セッションが終了する。
その後は決勝に受けて、市内で実施されるドライバーズパレードなどのイベントが用意されており、決勝に向けて徐々に街全体が年に一度の”祭典”に向けてヒートアップするという感じだ。決勝は、15日(土)の午後4時にスタート。テストデーが行われたウィークは夏日の好天に恵まれた現地だが、決勝レースに向けて薄曇りが先行気味で、決勝当日の天気はやや下り坂の模様。長いレースだけに天候の変化は避けられないが、できる限り安定した天気のもとでの戦いを期待したい。
観戦者もコロナ禍以降、年々増加傾向にあるとされ、前売り券も即ソールドアウト状態と聞く。燃料サーチャージはもとより、航空券の高騰、止まらぬ円安という厳しい状態に置かれる日本のル・マンファンにとっては、現地観戦なぞ”夢のまた夢”になっているのが現状だが、今や参戦するトヨタや専門スポーツチャンネル等がライブ配信で現地のレース状況を刻一刻と伝えてくれるため、情報収集にはさほど困らない。7時間の時差を上手くやりくりして、タフな戦いの行方を見守ってみよう!
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)