今年もコロナ下でのル・マンが開幕。ただし有観客実施に
フランスはもとより、ヨーロッパの夏の風物詩としても知られるル・マン24時間レース。今夏のフランスは、1年遅れながら無事開催されたオリンピックを終えた東京から2024年パリ大会に向けて希望のバトンを受け取ったばかり。その勢いにも押されるような形で今週末にはいよいよ89回目の大会が幕を開ける。昨年も猛威を振るう新型コロナウイルス感染症に立ち向かい、伝統のレースを実施。未だ変異株の拡大により予断を許さない状況ではあるが、世界トップの耐久レースは、収束を願う気持ちとともに開催される。
6月から8月へ
24時間通して戦う過酷なイベントは、もともと夏至にもっとも近い時期に開催されることが常だった。シビアなコンディションでステアリングを握るドライバーへの負担が少しでも軽減されるよう、また、視認性が高い時間帯の確保によって、車両同士の不本意な接触も回避できることから、日没の時間が最も遅くなる日程で実施されていた。しかし、昨年同様、今年の6月を迎えてもなお新型コロナウイルス感染症拡大の収束が見えず、2年連続で開催時期の順延を強いられた。昨年の9月よりはまだ日没時間も遅く、夜9時くらいでもまだ外は明るいと考えられるため、昨年よりは多少リスクを減らすことができるのではないだろうか。
コロナ下でできること
昨年は大会中止を回避するため、6月から9月への延期、そして無観客での実施となった。開催するだけでも厳しい条件を突きつけられていたことを考慮すれば、致し方ない選択だった。例年、ル・マンの地には25万人超のレースファンが足を運ぶ。ヨーロッパはもとより、北米、アジアからも年々観客は増えており、各々が独自のスタイルで長いレースウィークをサーキット周辺で過ごすのも風物詩となっている。その楽しみがようやく今年に復活するとなれば、ファンにとってはうれしい限りだろう。しかしながら、残念なことに観客には上限が設けられている。今大会は5万人に制限した上での開催となるようだ。欧州では日本よりも早いスケジュールでワクチン接種が終わっていると思われるが、世界各国からの人の流入を考えると相当リスクも高まるため、人数制限は苦渋の決断だったとも言える。
一方で、昨年は開催が見送られたテストデーは実施に至った。ちょうどレース1週間前となる8月15日、現地では朝9時から午後1時、さらに午後2時から午後7時まで、合計9時間の走行セッションが設けられ、全クラス計62台の車両が常設サーキットのサルト・サーキットおよび一般公道で構成された1周13.626kmを走り、本戦に向けての最終調整を試みた。この中で全セッションのトップタイムをマークしたのが、グリッケンハウス・レーシングの708号車グリッケンハウス007 LMH(ピポ・デラーニ/フランク・マイルー/オリビエ・プラ/グスタボ・メネゼス)。3分29秒115をマークした。一方、同じハイパーカークラスでGR010ハイブリッドを投入するトヨタGAZOO Racingでは、中嶋一貴がドライブする8号車が早々にチームベストタイムをマークしていたが、僚友の7号車をドライブするマイク・コンウェイがこれを上回る3分29秒340をマーク、総合2番手となった。WEC第3戦モンツァからほぼ1ヶ月。充分過ぎるインターバルを経て、長く過酷な戦いを前に実戦コースでのテストランが実現したのは、ドライバーはもとよりチームにとっても大きな成果になったことだろう。
トヨタ、目指すは四連覇
昨シーズンに続き、今シーズンも予選方式と日程に変化が見られる。決勝前の走行セッションは水曜、木曜の2日。水曜はフリープラクティスが2回。日中に3時間、日没後に2時間の枠がある。そして、ちょうど現地でのトワイライトタイムに当たる午後7時から1時間にわたる予選を行う。続く木曜日も前日同様の時間、時間枠でフリープラクティスを2回実施。そして、その合間を縫って行われるのが30分間の「ハイパーポール」セッションとなる。
水曜日の予選でトップタイムとなる3分26秒279をマークしたのは、7号車のトヨタ。アタックラップを刻んだのは、小林可夢偉だった。一方、僚友8号車は3分27秒671のタイムで3番手。36号車のアルピーヌ・エルフ・マットミュート(A.ネグラオ/N.ラピエール/M.バキシビエール)がトヨタの2台に割って入る形となっている。
なお、ハイパークラスに参戦する可夢偉や中嶋に加え、大舞台に挑む日本人選手としては、LMGTEアマクラスには、777号車Dステーション・レーシング(車両はアストンマーティン・バンテージAMR)の星野敏と藤井誠暢、そして57号車ケッセル・レーシング(車両はフェラーリ488 GTE Evo)の木村武史の3選手が参戦。また、賞典外ではあるが、イノベーション部門となる「ガレージ56」枠から初出場を叶えた青木拓磨が84号車アソシエーション・SRT41(車両はオレカ07・ギブソン)から挑む。元GPライダーとして知られる青木。オートバイでの事故により身体の自由を奪われてはしまったが、4輪レースに挑み続け、今回大きな夢を実現させるに至った。
木曜日、現地時間の午後9時から30分間で行われるハイパーポール。ここには各クラス上位6台が出走することになるが、日本人ドライバーとして進出を果たすのは、ハイパークラスのトヨタの2台のみ。トヨタは2018年からの4連覇をかけて挑む戦いに向け、まずはポールポジション獲得にターゲットをロックしているはず。今年投入されたばかりの新型ル・マン・ハイパーカー(LMH)であるGR010ハイブリッドがポールポジションを手にするかどうか、見どころになるだろう。
金曜日は走行セッションがなく、ル・マン24時間の決戦直前、土曜日の午前11時30分から15分間のウォームアップ走行を経て午後4時にいよいよスタートを迎える今年のル・マン。日本国内では、ちょうどSUPER GT第3戦鈴鹿大会が行われている中での決戦となるが、レースファンにとっては寝る間も惜しむほどのホットな戦いを繰り広げて欲しいものだ。
(TEXT : Motoko SHIMAMURA)