2019年 ル・マン24時間レース プレビュー
トヨタ同士のチャンピオン争い、勃発!
6月を迎えたフランスは国際的に有名なスポーツイベントの花盛り。まず、テニスの全仏オープンがひと足先に閉幕したが、現在、各地ではFIFA 女子ワールドカップ フランス 2019の真っ只中。日本からは、なでしこジャパンが遠征し、戦いに挑んでいる。そんな中、モータースポーツファンにとって心待ちにしているビッグイベントが間もなく決戦を迎える。そう、ル・マン24時間レースが現地時間15日(土)午後3時(日本時間午後10時)に号砲となる。昨年、悲願のル・マンで勝利したトヨタだが、今年は連覇、そしてチーム同士によるチャンピオン争いが注目を集めている。
■初のスーパーシーズン、いよいよ最終章
伝統のル・マン24時間レースが、WEC、世界耐久選手権の一戦に組み込まれたのが2012年。全8もしくは9戦で争う形で6シーズンを経て、2018年からは年をまたいで2019年6月のル・マン24時間を最終戦とする「スーパーシーズン」へと形を変えた。結果、全8戦の中にル・マンが2度(2018、19年)組み込まれるという、変則的なシーズンになっている。
新たなシーズンの形で繰り広げられた戦いは、イベントカレンダーだけでなく、参戦する車両にも変化をもたらした。近年のル・マンのトップクラスを長らく牽引してきたアウディが2016年にシリーズから撤退、さらに2017年にはアウディの前に立ちはだかったポルシェも参戦を終了。そして、WEC参戦に代わり、アウディは2017年末から、そしてポルシェは2019年末からフォーミュラEへのファクトリー参戦を開始するなど、自動車メーカーとして次世代のモータリゼーションに沿った活動に舵を切っている。
一方、2012年にル・マンを含むWECへの挑戦を再開したトヨタ。同社が開発、製作した初のプロトタイプレーシングカーは、ル・マンに2台エントリーするも、リタイヤという悔しい結果に終わった。以後、アウディを追い、戦い、また、2014年から再び耐久レースに復活したポルシェとの三つ巴のバトルを繰り広げてきた。そして、優勝目前に迫った2016年、ドライブ中の中嶋一貴が無線で「ノーパワー」と放った衝撃の叫びはこれからも語り草となるだろうが、トライ&エラーの積み重ねはついに2018年に報われることとなる。すでにライバルたちがル・マンを去った後ではあったが、ライバル不在の中、”勝って当然”というプレッシャーを跳ね除け、ル・マンで勝利したことには大きな意味があるだろう。
そして2018年5月に産声を上げた”スーパーシーズン”。トヨタは、8号車が第2戦ル・マンで勝利したわけだが、その後、第4戦富士、第5戦上海では7号車が、そして第6戦セブリング、第7戦スパ・フランコルシャンは8号車が勝利。いわゆるドライバーズタイトル争いでは、8号車が7号車を大きくリード。日本人ドライバーとして8号車には中嶋が、そして7号車は小林可夢偉が参戦中とあって、今年のル・マンはどちらが勝利するのか、目が離せない。
■WECだけれど、ル・マンはル・マン
WECの最高峰クラスのLMP1では、ハイブリッドクラスとハイブリッドを搭載しないノンハイブリッドに二分されている。トヨタ以外のワークスチームが不在であるため、ノンハイブリッドではプライベーター同士が戦いを繰り広げている。とはいえ、本来であれば、メーカーがバチバチとバトルを見せることこそが世界最高峰のレースと言えるのではないだろうか。ということで、どうしても関心が薄らいでいることも否めない。
だが、待ってほしい。F1 モナコGP、インディ500と並び「世界三大レース」と呼ばれるル・マン。1923年に「ラッジウィットワース杯24時間耐久グランプリ」として初開催された歴史あるレースは、たとえWECの一戦に含まれようとも、レースファンにとっては、ル・マンは格別、別格のレースイベントでもあるのだ。24時間の戦いを裏で支えるコースのマーシャルはみなボランティア。コース上のコーナーポストでは、三世代に渡って家族がサポートする場所すらある。6月の夏至が迫る週末、年に一度の”お祭り”であることに変わりはないのだ。国内外から集ってくるレースファンもみな同じ。日が暮れ、夜の帳が下り、そして朝日が上がってくるのを心待ちにしながらル・マンを包むクルマのエキゾーストサウンドに心酔しているのだ。
クルマの在り方が大きく変わっている今日、この先のル・マンを方向づける発表も控えている。この先のWEC、ル・マンに関するプレス発表の内容も気になるところだが、24時間という長い一日の中で繰り広げられるドラマは、いつの時代もダイナミックなものになることだろう。さて、今年はどんな展開が待ち受けているのだろうか。