なるか、トヨタ悲願のル・マン制覇
4年に一度のサッカーワールドカップ・ロシア大会が近づく中、ヨーロッパではもうひとつのビッグイベントが刻一刻と近づいている。今年で86回目の開催を迎える伝統レースは、F1モナコGP、アメリカのインディ500とともに”世界三大レース”として知られている。先週末にはテストデーが行われ、あとは本番を待つのみ。そんな中、まだ達成されていない初勝利へ向かって邁進するのがトヨタ。大本命と言われる中、悲願達成となるのか。
■ライバル不在の中で
2016年にアウディ、そして去年はポルシェがル・マンを含む世界耐久レース(WEC)への参戦を終える中、トヨタは、唯一ハイブリッドカーでLMP1クラスに参戦するマニュファクチャラーズとなった。伝統ある一戦での勝利を是が非でも実現させたい、そしてハイブリッド車両の販売というマーケティングを考慮し、トヨタは直接的なライバルが不在となっても参戦継続を決断した。これまでLMP1クラスは「ハイブリッドか否か」で細分化され、プライベーターチームはノンハイブリッド車での参戦を行ってきたのだが、ワークス対プライベーターで優勝しても、正直そのバリューは無いに等しい。レースは同じ土俵の上で戦ってこそ、のものだからだ。レースファンとて同じ思いであるのは言うまでもない。
そこでトヨタは、これまでのように参戦車両同士がしのぎを削る戦いを存続させるため、プライベーターチームに同じ土俵へ上がってもらうという策を講じたのだ。そのため、LMP1のノンハイブリッド車両のポテンシャルを大きく引き上げ、トヨタとコース上で戦える状況を作り上げた。一方で、自チームの車両開発を凍結。よって今シーズンの車両は、昨シーズンの最終戦で投入した仕様に留まっている。結果、ルール上「EoT」(イクイバレンス・オブ・テクノロジー)と呼ばれる技術の均衡を取り入れた性能調整が随時適用されるようになった。ルール変更によって、トヨタのライバルに名乗りを上げる既存のLMP1プライベーターチームに加え、LMP2クラスからステップアップするチームも出現。トヨタが送り出す2台のハイブリッド車両に対し、8台のノンハイブリッド車がライバルとして出走する。彼らもまた、伝統の一戦でクラス優勝ではなく、総合優勝という大きな目標に向かって新たな挑戦を選択したのだ。
先の開幕戦、スパ・フランコルシャンでの一戦は、準備不足のチームも見られ、まだ新たなルールに則って万全の体制を構築できていないような場面もあった模様。レース自体、一日の長があるトヨタに軍配があがり、3位以下のライバルに大きな差をつけて1−2フィニッシュを達成することとなった。とはいえ、そのトヨタ自身も完璧なレース運びではなく、予選でトップタイムをマークしたTS050の7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組)は、予選で使用したヒューマンエラーとも言える燃料流量計の違反に問われるというミスを犯している。参戦の積み重ねによるコース上での速さや強さに信頼性を伴ってきたとはいえ、レースはチェッカーを受けるまでその結果を断定することは不可能であることを忘れてはならない。また、トヨタ同士によるガチバトルになる可能性も残されている。”テッペン”を取ることが目標である以上、最終的には7号車と8号車(セバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/フェルナンド・アロンソ組)による壮絶なバトルになる可能性もゼロではない。このため、チームでは「特別ルール」を設定。レース中の最終ルーティンワークでピットインをした際、その順番のままチェッカーを受けるという”暗黙の了解”を用意しているという。新旧のF1ドライバーを多くラインナップするチームならではの配慮なのかもしれないが、それ以上に、電撃参戦表明をしたアロンソ対策にも思えてしまう。いずれにせよ、トヨタは外から内からあらゆる方法を使い、喉から手が出るほど欲する勝利に向けてひた走っているというわけだ。
■変更点あれこれ
LMP1クラスの編成が変更の大きなポイントとなった今年のル・マン。だが、この他にも小さな変更点がいくつか見られるので、それを紹介することにしよう。
まず、スパ6時間で幕を開けた2018年シーズンは、2019年へと年をまたぐ「スーパーシーズン」となる。ル・マンウィークはもちろんのこと、その1週間前に実施されるテストデーの日程には変化はないものの、今年のル・マンはシーズン2戦目として開催され、その後、ヨーロッパ、アジアを転戦し、再び来年の6月にル・マン24時間レースがシーズン最終戦として実施されることになった。1シーズンにル・マン戦を2度行なうというスペシャルな1シーズンになったのだ。
次にル・マンのコースについて。サルテ・サーキットおよび一般公道を組み合わせた特設コースだが、今年はポルシェカーブ周辺の改修が行われており、結果的にコース全長が3メートルほど短くなったそうで、1周の距離が13.626kmに変更されている。さらにパーマネントコースにおいてもスタートラインの場所が1コーナー方向に移動されたという。これによってコースのメインストレート上で参戦する全車両がきちんと隊列を組むことが可能になった。
また、レース中のピット作業においてルールが改正された。これまでピットストップ時の作業は給油とタイヤ交換を同時に行なうことを禁止していたが、同時作業が認められることになった。これまで給油後のタイヤ交換の作業時間で生まれる小さな差の積み重ねが戦いに少なからずとも影響を与えていたが、その有利/不利さによる影響力は小さくなりそうだ。
新しく導入されたり、見直しが行われたルールの下で行われる”スーパーシーズン”の第2戦「ル・マン24時間レース」。その決勝は16日(土)の午後3時に号砲となる。
TEXT : MOTOKO SHIMAMURA